突然の介護生活

母は2年前くらいから心臓の病気を患っていたらしい。2年前といえばちょうど夫の浮気が発覚したころで、ごたつく智美に余計な心配を掛けないように口止めされていたんだと、父から聞かされた。

母は一命を取り留めたけれど、転んだ拍子に腰を悪くして歩けなくなった。父と智美は母の介護に追われた。

けれど父の年金だけで生活と介護を賄っていくのは難しかった。父は駅の清掃のアルバイトを始め、智美は家で母の面倒を見た。クレジットカードの督促のことは話せないままだった。

智美の唯一の息抜きは、相変わらず推しだった。推しは智美を救ってくれた。クレジットカードが使えないならと、大事なコンサートやイベントのために消費者金融で借金をした。利子が高くついたけれど、推しのためだと思えばそんなことは気にならなかった。智美が生きていられるのは推しのおかげだった。だから少しでも恩返しをしたかった。基本的に画面に隔てられた別世界にいる推しに智美ができる恩返しといえば、グッズを買い、CDを買い、コンサートへ足を運ぶことだった。

そして推しは—— 如月海斗は〈Candy Beats〉を辞めた。