夫婦の大切な「ルール」
大学生のときから付き合っていた太一と結婚すると報告したとき、友達たちはみんな驚いた。
小学校から高校までみっちりソフトボールをしていて、すっかり地黒になってしまった肌とそばかすの浮いたほっぺの真理。一方の太一はずっと文化部で運動なんてからっきし。興味があるのは洋服やメイクで、当時からバイト代や仕送りのほとんどを自分の趣味につぎ込んでいた。
「だって真理、ああいうチャラチャラしてるの好きじゃなかったじゃん」
そう言ったのは、1番仲の良かった香苗だった。真理はそうじゃないんだよと笑う。たしかに見た目はそうかもしれないけど、マメで真面目で優しくて、真理は太一のそういう部分が好きだった。
それに自分が好きなことに正直なのもすてきだ。メイクや洋服の話をしているときの太一は少年みたいな表情で笑う。
残念なことに、30歳を過ぎてなお、美容やメイクに疎い真理は太一の話の半分も理解できなかったし、興味だって全然湧かなかった。それに太一は美容やメイクのこととなると多少金遣いが荒いような気もする。けれどこんなものは不満のうちには入らない。真理だって友達とキャンプやスポーツ観戦によく出掛けてお金を使うのだからおあいこだった。それに今朝みたいなとき、太一の趣味は真理を大いに助けてくれるから頼もしくすら感じている。太一と一緒に生活するようになってから、同僚や後輩社員に「きれいになった」と言われたことだって一度や二度ではない
お互いの趣味や時間を尊重すること。
それが夫婦としてやっていくために真理たちが決めた、大切なルールだった。別にどちらかがどちらかに合わせる必要はない。子どもだって作らない。お互いが好きなことをして、楽しく生きる。そういう夫婦のあり方だってなしではないはずだ。けれど今振り返ってみれば、一緒に生きていくことがどういうことなのかよく分かっていなかったのかもしれないと真理は思う。
いいや、そんなことをちゃんと理解した上で結婚しているような人が世の中にどれだけいるというのだろうか。