婚外恋愛の「痛すぎる」代償

川谷を直接訪ねても、今後の展望が開けなかったため、未来は弁護士に対応を相談した。実は、川谷の勧めで駅前のマンションに引っ越してから、家賃の負担が増えたために生活に窮するようになっていたのだ。加えて、川谷から関係を一方的に遮断されて以来、極度の人間不信になり、会社に出社することが苦痛になっていた。

川谷は、弁護士からの連絡に応じ、弁護士事務所で面談。未来が川谷の子を堕胎したこと、また、川谷の要望によって未来が駅に近いマンションに移ったことなどを認めたため、未来に与えた精神的な苦痛に対する慰謝料と、転居等のために生じた経済的な損失に対して相応の賠償金を支払うことで和解した。この賠償金の支払いのため、川谷は持ち株会で10年にわたって積み立ててきた資金を取り崩したのみならず、愛車を売却した。

川谷夫婦は、その後、離婚した。妻の美咲は数年にわたる川谷の浮気に伴う不自然なふるまいに気付かないはずはなかった。川谷に未来との不倫を告白される前に、探偵事務所を使って川谷の不倫の証拠となる写真などをそろえていた。このため、離婚の原因は一方的に川谷にあるとされ、財産分与と妻への慰謝料として郊外の戸建てを妻に譲渡した。子どもとは月に1回の面会が許されたが、子どもが成人するまでの養育費を支払うことになった。

川谷は、同じ会社で勤め続けているが、出世頭として期待されていた時のようなはつらつとした仕事ぶりではなくなっている。離婚以来、何かと川谷の後ろ盾になってくれていた池山からの支援もなくなった。未来は、勤めていた量販店を退社したが、川谷から得られた賠償金によって美容専門学校に入学し、幼いころに夢見ていた美容師になる夢に挑戦することにした。誰かに頼るような生き方ではなく、自分の力で稼げることの重要性に気が付いたためだという。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。

文/風間 浩