<前編のあらすじ>

中堅電器メーカーに勤める川谷翔太(30歳)は、妻子がある既婚男性であるにもかかわらず、担当する家電量販店に務める木村未来(23歳)と定期的に逢瀬(おうせ)を重ねるようになっていった。素直に自分の要求に応える未来に対して、川谷は自分の要求をエスカレートさせていくが……。

●前編:気づけば週2の二重生活に…出世目前の30代サラリーマンが不倫に走った経緯

不倫相手を着信拒否で放置しようとした結果

川谷と未来が付き合い始めて2年を過ぎた頃に、未来は川谷の子を妊娠する。未来は、川谷から堕胎を勧められた時に川谷が言った「もう少しの間、辛抱してほしい」という言葉には、川谷が離婚の準備をしているためだという意味が確かにあったと言っている。しかし、川谷は、そのようなことを言った覚えはないと否定している。

川谷と未来の関係は、未来の妊娠・堕胎によって変質した。未来は「週に2回ほど会うことが当たり前だったものが、月に2回も会えなくなり、店舗で顔を合わせることがあっても明らかに避けられているように感じました。そして、あの日(堕胎の日)から半年が過ぎた頃、川谷さんは担当店舗を代わり、会うことが一層難しくなりました」と証言した。川谷は、未来が結婚を迫るようになってきたことにプレッシャーを感じていたという。未来にとっては、文字通り、「身も心もささげた大恋愛」だったが、川谷にとっては、「都合の良い浮気相手」でしかなかったということだ。

川谷は、担当店舗が変わってからは、未来との関係を絶つことに努めた。未来のマンションを訪ねることはなくなり、未来からの連絡には返事を出さなかったばかりが、最終的には着信拒否にして未来からの連絡を遮断した。結果的には、川谷がとった着信拒否が、未来を追い詰め、勤め先を直接訪問するという行動に駆り立ててしまった。川谷は後になって、「もっとよく話を聞いておけばよかった」と反省しているが、それは、調停という審判を受ける場に立ち会うことになるかもしれないと追い込まれてからのことだった。

その日、たまたま在籍していた川谷は、受付からの連絡に応えて、本社ビル1階の受付に出向いたが、その場に、未来ばかりか、上司の池山がいたことに心底驚いた。場所を移して池山に事情を聞かれ、ありのままを話すしかなかった。川谷は3年ほど前から未来との付き合いがあるものの、妻とは離婚するつもりはないと話した。池山は、川谷に対しては妻には正直に話してわだかまりを残さぬようにと説諭し、未来に対して穏やかに諭すように「不倫は良くない。もっと自分のことを大事にしなければならない」などと語りかけて、川谷のことを忘れるように話した。未来は一言も発することなく、ただ黙って池山の話をきいていたが、最後に1粒の涙を流した。