妻子ある男性や女性が、パートナーとは異なる相手と関係を持つと「不倫」として社会的な制裁を受けるが、実は、一般の社会人の間でも不倫で裁判沙汰になるような事案は少なくない。不倫や浮気は、互いに一線を越える意志があって成立しそうなものなので、今年7月に施行された「不同意性交」とは入り口の時点で異なるのだろうが、その出口を間違えると不倫相手から慰謝料を請求されるようなトラブルに発展することもある。

あなたの“性”に対する感覚は相手と同じではない!

川谷翔太(仮名、34歳)は、中堅電器メーカーで法人営業を担当している。妻の美咲(仮名、30歳)とは職場結婚だが、3歳になった息子と郊外に建てたマイホームで安定した毎日を送っていた。あのことが、起こるまでは……。

そう、あの日、本社の正面受付に木村未来(仮名、26歳)が川谷を訪ねてきて、受付で「川谷の彼女です」と名乗った。ちょうど、その現場に川谷の上司である池山真治(仮名、53歳)が居合わせるという偶然も重なった。池山は職場結婚である川谷夫妻の仲人のような存在で、夫妻との縁が深い上司だった。

3年ほど前、子どもが生まれた頃の川谷の担当先は、都内北部地区の家電量販店だった。川谷の勤める会社では、スタイリッシュな家電が若者の人気を集め、量販店でも大きな売り場を獲得することができている。土日の休日も関係なく販売キャンペーンの際には応援に駆り出されることで、子どもと遊ぶ時間を奪われることが苦痛ではあったが、それでも自身の成績に応じて給与も処遇も上がるため、生活を豊かにするためと割り切って働いた。同期の中では、もっともマネジャー職に近いといわれていることも励みになっていた。

その日は、川谷が担当する店舗の近隣店で大型の販促キャンペーンがあるということで、担当店舗の運営人員の補助として休日出勤をした。近隣店舗のキャンペーンの影響か、来店客の少ない日だった。未来(みく、当時23歳)は、その年に量販店で採用された新入社員で、先輩たちが近隣店の応援に駆り出される中、いわば留守番として店舗に残り、川谷と同じフロアを担当していた。

その日は、来店客が少ない分、接客よりも、バックヤードでの作業の時間が比較的多く、そこで何度か川谷と未来は言葉を交わす機会があった。未来は、川谷が勤めるメーカーが開発した掃除機の大ファンということで、川谷から開発経緯などの話を聞くことを喜んだ。自然と、夕食を一緒にする約束ができた。夕食の折、川谷は学生時代に応援部に所属し、未来はブラスバンド部だったことがわかり、互いに好きだった応援マーチを口ずさんで大いに盛り上がったことが2人を急速に近づけた。食事の後で、当たり前のようにホテルに行ったのは、それほど未来との間で、親密な空気があったということだろう。また、妻の美咲とは出産を挟んでしばらくの間、夫婦の営みがなかったことも、この日の川谷の行動を説明する理由のひとつといえるのかもしれない。