激変した瞬太君と1年ぶりの再会

1年がたち夏休みに入ったある日、瞬太君が突然うちの子供食堂に姿を見せました。

「あら、久しぶりね」と声をかけると、「僕、引っ越したんです。ちゃんとご挨拶してなくてすみませんでした」とぴょこんとお辞儀をしました。

身長も伸びて大人っぽくなった感じで、ずいぶんイメージが変わったなと思いました。

その日のメニューはたまたま、瞬太君の大好物でいつもお代わりしていたトロトロ角煮の酢豚でした。あっという間に平らげた瞬太君に「お代わりはいいの?」と尋ねると、「いいんですか?」と遠慮がちに空いた皿を差し出しました。

食事を終えると瞬太君はスマートフォンでどこかにメールをしているようでした。5分ほどして、かっぷくのいい私と同年代の男性が瞬太君を迎えにやって来ました。瞬太君のお母さんの再婚相手の美容外科の院長でした。

私のネームプレートを見て「あなたが桑原さんですね?」と確認した上で、「以前は家内が大変失礼致しました」と深々と頭を下げました。

瞬太君の継父に差し出されたのは……

「当時、妻は患者さんとの訴訟を抱えていて、精神的にいっぱいいっぱいだったと思うんです。暴言を許してやってください」

さらに、「今日は瞬太がどうしても子供食堂のご飯が食べたいというので連れてきました。去年までは反抗期で家内と口も利かない時期があったようですが、ここのご飯をいただくのが数少ない楽しみだったようです」と言い、「心ばかりですが、運営に役立ててください」と白い封筒を渡されたのです。

「料金をいただくわけにはいきません」という私に、「これはあなたたちの活動に共鳴した私からの寄付です」と封筒を握らせ、満足そうな瞬太君と共に帰って行きました。

後で見たら、中には10万円が入っていました。

「瞬太君、素敵なお父さんができて良かったわね」。その日の子供食堂の閉店後、洗い物をしながらオーナーに話しかけると、オーナーも大きくうなずきました。「私たち、なんだかんだで、瞬太君母子のお役に立っていたのかもね」

人は表面だけでは分からないものだなと思いました。今はただ、瞬太君とお母さんが新しいお父さんと3人で心穏やかに暮らしていかれることを願うばかりです。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。