「持ち家か賃貸か」に正解はない!

谷さんはキャリア20年のベテランで年齢は40代後半、わが家の最寄り駅から2駅ほど離れた私鉄の急行停車駅の近くに事務所を構えていました。「“地域密着型FP”がモットーです。一応はお金の専門家ですが、貯蓄や住宅ローンから相続まで、結構守備範囲が広いんです」と笑う姿は、頼りになる兄貴分という感じです。聞き上手でもあり、私たちは気付けば、谷さんの前でこれまでの経緯や不安、揺れる思いを一切合切吐き出していました。

時に相づちを打ちながら私たちの言葉に熱心に耳を傾けてくれた谷さんは、私たちの話をひと通り聞いた後、「それで、郷田さんはどうしたいんですか?」と尋ねてきました。

「郷田さんもこれまでいろいろな情報を目にしてきたと思うけれど、『持ち家か、賃貸か』という命題に正解はないんです。住居費の総額はどちらが低く抑えられるかというシミュレーションも、その人のライフスタイルや経済環境によって大きく変わります。ご友人の方はたまたま金利の底で住宅ローンを借りることができて、いい物件を購入された。でも、今後ご友人と同じ条件でマンションが購入できるとは限りません。逆に、不動産市場が暴落して、ご友人のマンションの資産価値が大きく低下する可能性だってゼロではないんです。だから、こういうご相談を受けた時は、その方の希望に沿って今できる最善の策を一緒に考えることにしています」

転勤の多い人や、勤務先で社宅や住宅補助の制度が充実しているなら、慌ててマイホームを購入する必要はないかもしれない。一方で、資産バブルの時代にマイホームを買っておけば価値がどんどん上がるけれど、デフレが続く時は安い家賃で賃貸を続けるのも1つの選択肢となる……。谷さんの話を聞いているうちに、心のもやもやが少し薄れてきたのを感じました。隣で妻が「私はやっぱり賃貸のままでいいかな」とつぶやくのを聞いて、「私も同じです」とうなずきました。