米国の新潮流「ダイレクト・インデクシング」とは?

一方で、パッシブファンド市場では、コスト競争の激化とともにプレイヤーの寡占化も進んだ。パイオニアのバンガードのほか、iSharesブランドでおなじみのブラックロック、金(ゴールド)ETFでも有名なステート・ストリートに加え、2018年にはついに、フィデリティ・インベストメンツが信託報酬無料の「フィデリティ・ゼロコスト・シリーズ」を投入した。

どれだけ残高を積み上げようと、もはやインフラと化した超低コストパッシブファンドで収益の拡大を目論むことは難しく、近年、各運用会社はさまざまな方面で新しいビジネスの可能性を探っている。その最新トレンドの1つである、「ダイレクト・インデクシング」と呼ばれる、カスタマイズ型インデックスの提供サービスについて最後に紹介しておきたい。

ダイレクト・インデクシングとは、インデックスファンドやETFを購入するのではなく、インデックスの構成銘柄を直接買い付けてオリジナルのインデックスポートフォリオを構築するサービスで、ロボアドバイザーのほか、ダイレクト・インデクシングに特化してサービスを提供している専門業者もある。日本ではほとんど報じられていないが、実はブラックロックが昨年、バンガードが足元7月に、それぞれダイレクト・インデクシングの専門業者を買収している。

ダイレクト・インデクシングは、通常の市場インデックスよりも「ESGを重視したい」「特定の銘柄を排除したい」といった投資家のニーズに応えることができるのと同時に、投資家としても、節税対策として利用できる点に最大のポイントがある。米国は総合課税のため、ダイレクト・インデクシングを活用すれば、値下がりした株式を売却して損失を確定させ、その分を売却益が出て課税される見込みの株式や、その他の収入と相殺して課税対象額を圧縮する”Tax-loss Harvesting”が可能になる。この節税方法は、個別株特有のもので、投資信託だと利用できない。バイデン政権による、個人所得税におけるキャピタルゲイン税率の引き上げ策の影響もあり、今後、ダイレクト・インデクシングをはじめとする富裕層向けサービスも競争が進むとみられる。

日本でもようやく「貯蓄から資産形成へ」の芽が出始めたことには素直に喜びたい。しかし、すでに本家の米国よりも早いスピードで価格競争が進んでいることや、多くの若年投資家がまだ経験していない、急な相場変動時のケアについては不安も残る。米国の成功例を過度に評価するのではなく、日本の若年投資家のために何ができるか、ブームが巻き起こっている今こそ冷静に考えたい。