成功体験の「第1期生」は日本にまだ存在しない

足元の人気ぶりを見ると意外に思われるかもしれないが、実は、日本の投資信託市場における米国株式インデックスファンドの歴史はまだ浅い。最も長い運用実績を誇る「SMTAMダウ・ジョーンズ インデックスファンド」(三井住友トラスト) ですらリーマンショック後の2009年4月の設定で、S&P500指数連動型に至っては、2013年9月設定の「iシェアーズ 米国株式インデックス・ファンド」 (ブラックロック)が第1号である。インデックスファンドのパイオニア、米バンガードの代表的なETF「VTI」に実質的に投資する「楽天・全米株式インデックス・ファンド」の設定 は2017年9月。さらに、6000億円規模の残高を誇る「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」 は、2018年7月の設定と、いずれも運用を開始してからようやく3~4年が経過したところである。

つまり、以前から海外ETFなどを活用していたごく一部の投資中上級者を除けば、日本において、実際に米国株式インデックスファンドだけで資産を形成したといえる長期資産形成の「第1期生」はまだいないはずだ。にもかかわらず、あたかも自身の全財産を米国株式インデックスファンドで築いたかのような成功体験がネット上で拡散されていることには違和感を覚える。積立を活用した長期分散投資の成功は、本来、長い道のりであるからだ。

本家の米国はどうか。先述した米バンガード社が個人向けのインデックスファンドを初めて世に送り出したのは1976年。しかし、その船出は決して順風満帆ではなかった。というのも、1970年代後半から80年代にかけて、米国経済は高インフレと高失業に加え、「双子の赤字」(財政赤字と経常赤字が併存する状態)の拡大にも苦しめられたためだ。端的に言えば、市場環境が良くなかったのである。

ずっと右肩上がりの上昇を続けてきたと思われがちな米国株式市場とインデックス(パッシブ)ファンドだが、米国の投資信託市場でパッシブファンドの存在感が顕著に高まったのは、リーマンショック後の2000年代後半以降のことである。この背景には、株式市場の回復に加えて、確定拠出年金(401k)や個人退職勘定(IRA)の第1期生である、いわゆるベビーブーマー世代の資産形成が実を結んだことも影響している。日本と米国の大きな違いは、この先代の成功体験にもある。