順調だったプロジェクトに影

下田が体調不良になりプロジェクトから外れて休職するなどの多少のアクシデントはあったものの、祥吾は責任者としてプロジェクトを順調に進めていた。だから、部長から呼ばれたとき、祥吾は意気揚々と会議室へ向かった。

しかしノックして会議室へ入ってみると、そこには部長と並んで見慣れない男が座っていた。男の表情は柔和だったが、祥吾は不穏な印象を受けた。

「まあそう身構えるな。座れ」

部長に言われて席に着いた祥吾は、男がコンプライアンス室の副室長だと名乗って以降、話された内容をよく覚えていない。

体調不良になった下田はクライアントとの付き合いがよく、信頼もされていた。その下田が急遽プロジェクトを外れて休職する旨の連絡を懇意にしていた担当者に話したところ、クライアントが過剰なハラスメントの可能性を疑い、苦情にまで発展しているそうだった。無論、下田にハラスメントを働いたとされているのは祥吾だった。

どうして責任者である自分を通さずに、話が大きくなっているのだろうか。そもそもハラスメントなんてするはずがない。下田の成長とプロジェクトの成功を思ってやったことであり、非難されるなんておかしいじゃないか。

反論することはいくらでもできた。不服を申し立てることだっていくらでもできた。

だが、それをしたところでどうなる? すでにクライアントとは担当者を変えてプロジェクトを継続する(契約上、途中で破棄することはできなかった)ことに合意を取っており、事実はどうあれ祥吾はパワハラでプロジェクトから下ろされた男でしかない。

もう成功も、出世も、何もかも終わりだ。

会議室から出た後もぼーっとして仕事が手につかなかった祥吾は部長に肩を叩かれて、昼前に早退した。

「仕事はできるけど、お前は人の気持ちを無視する少し無神経なところがあるからな。心配してたんだ。これからどうするのか、ゆっくり考えろ」

突き放すような部長の声がいつまでも頭の中で響いていた。

●大型プロジェクトのリーダーに抜擢された祥吾にパワハラ疑惑が浮上。自宅謹慎を命じられ、出世と成功を目指してきた祥吾の前途は閉ざされた…… 後編【出世コースから転落した30代男性…初めて行ったライブ会場で出会った見知らぬ男性との「充実した時間」】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。