「おいおい勘弁してくれよ」

祥吾は思わず声を荒げた。寄りかかったデスクチェアの背もたれが軋む。すいません、と後輩の下田が口をもごもごと動かしていた。

「午後イチで確認するから頼むって言ったよな? 下田、お前うなずいたよな? だったら責任もってやり通すのが常識ってもんなんじゃないのか?」

祥吾はあからさまにため息を吐く。ついカッとなって叱ってしまったが、こうしている時間ももったいない。

「今日中にやってくれ。できるまでは俺も残ってるから」

下田はしぶしぶといった感じでうなずいて、自分の席に戻っていった。祥吾もひとつ深呼吸をし、モニターに向かった。

新卒で入社して10年。これまでもさまざまなチャンスはあったが、なかでも飛び切り大きなプロジェクトが祥吾のもとへと舞い込んできた。

国内最大手のラグジュアリーホテルの創業50周年に向けたリブランディングプロジェクト。これまでどんな案件でも手を抜かず、全力で取り組んできたからこその大抜擢だ。プロジェクトリーダーとして、何としても成功に導かなければならない。この山を乗り越えれば祥吾はさらに成長し、出世の道も確約されるに違いない。まさに輝かしい未来を懸けた大一番だった。

先方への提案資料をまとめていき、その作業の合間に抱えている他案件の進捗を確認するために方々に連絡をしていると、あっという間に15時を過ぎていた。

祥吾は凝り固まった肩を回し、目頭を揉む。深く息を吐いたあと、集中していたせいでおざなりになっていた空腹を満たすために立ち上がった。