推し活に呆れる祥吾
なかなか来ないエレベーターを待って乗り込むと、途中の階で同期入社の堂本が乗り込んできた。
「よう、祥吾も今から昼? 久々、一緒にどうよ。駅ビルに新しく入った定食屋行こうと思ってるんだけど」
「いや、仕事あるから。悪いな」
「まさか、デスハン?」
大げさにリアクションしてみせた堂本を鬱陶しく思いながら、祥吾はうなずいた。
デスハンという一見すると物騒な言葉は、“「デス」クで昼「飯」を食べること”を指す社内スラングだ。あちこちから細かい仕事を頼まれてしまう若手によくある状況で、自分が本来やるべき仕事に手が回らないくらい忙しいときに、デスクで飯を食べ、仕事をしながら休憩を取る。効率がいいのかは定かではないが、営業部出身の人間は20代のほとんどをデスハンで過ごすことも多い。
「懐かしいな。昔はよく2人でデスハンしたよな」
「そうだな」
堂本は数年前まで祥吾と同じ営業部にいた。だが結婚して以降、奥さんの趣味だという野球観戦にハマった堂本は比較的ワークライフバランスの取りやすい人事部へ異動願を出した。平日夜には急ぎ足で退勤してスタジアムへ向かい、ビールを片手に野球観戦を楽しんでいることをSNS経由で祥吾も知っていた。
「あ、そうそう。あとでお前のとこ行くわ」
「何の用で?」
「この前、推しの選手のトークイベントがあってさ。旅行がてら、北海道行ってきたんだよ。そのお土産」
言いながら堂本は携帯の画像を見せてくる。大きなスタジアムの前で野球のレプリカユニフォームを着て堂本は嬉しそうな笑顔を浮かべている。いわゆる推し活というやつだろう。
あほらしい。反射的にそう思うや、祥吾の唇からは乾いた笑みが漏れていた。
「北海道? よくやるな。仕事放り出して時間のムダだろう」
昔はいっしょに頑張っていたのだから、寂しさがないわけではない。そもそも他人の成功体験に乗っかるなんて愚かな行為だ。そんなことに時間やお金を費やすのであれば、自分に投資すべきだろう。
「お前は変わんねえなぁ」
へらへらと笑っている堂本に別れを告げて、祥吾はコンビニへ向かった。
