夫との温度差に耐えられず

玄関が開く音とともに、冬の夜気と酒の匂いがふわりと流れ込んできた。ソファに座っていた早苗は、ぴたりと雑誌から目を離す。

「ただいまー。寒かったー……あ、焼き鳥買ってきたよ」

大地の声は機嫌がよく、頬もほんのり赤い。コンビニ袋の中には、串ものと缶ビールが数本。楽しげに話しかけてくる夫を見ながら、早苗の胸の奥で、またか、という声が小さくつぶいた。

妊娠がわかってからというもの、食事にも体調にも神経を張り詰める日々に早苗の生活は一変した。

一方で大地の暮らしぶりは、以前とほとんど変わらなかった。晩酌も外食も、仲間との飲み会も、彼にとっては「いつものこと」のままだった。

最初の頃は、それでも笑って送り出した。けれど週末ごとに繰り返される飲酒と、夜ごとに響く缶を開ける音に、しだいに心がすり減っていった。先週も、その前の週も、似たような口論になった。でも、その場しのぎの謝罪と言い訳が続いただけで、彼はまた同じことを繰り返した。

「おー、あったあった」

大地がキッチンに向かい、缶のプルタブに指をかけた。その仕草に早苗は反射的に声を荒らげていた。

「ねえ、家でも飲むつもり?」

大地が振り返る。驚いたような顔をしたあと、うっすらと不満げな色を浮かべた。

「え、なに。飲んじゃダメなの? 俺まで禁酒しろって話?」

「……そうじゃない。けど、ちょっとは気をつかってって、何回言ったらわかるの」

口調が強くなったのは自分でもわかっていた。

でも、止められなかった。

「私ばっかり、あれもダメ、これもダメって我慢して、情緒もボロボロで、それでも……」

途中で言葉が詰まった。