冷蔵庫の扉を開けると、ぎっしりと並んだ缶ビールやチューハイのパッケージが、仕事終わりの開放感に拍車をかけるようにきらめいた。

「どれにする? 私は柚子のやつでもいいかな」

そう言いながら、早苗は腰に手を当てて缶をのぞき込む。夫の大地はその隣に立ち、どれにしようかと迷うふりをしながらも、結局いつもの苦味強めのビールに手を伸ばした。

「俺はこれ。焼き鳥でいいよね?」

「うん、昨日の残りもあるし、あとは冷奴でもつけようか」

2人は自然と役割を分担して動き出す。大地がグラスに氷を入れ、早苗はキッチンで豆腐を切る。手際のよさは、何度も晩酌を繰り返してきた証だった。

幸せな晩酌の時間

グラスの中で氷がからんと鳴る音が、疲れた頭の中を一気に切り替えてくれる。テーブルに並べられたのは、コンビニの焼き鳥、薬味をのせた冷奴、それに枝豆。気取ったものは何ひとつないが、大地と一緒に囲むとそれが贅沢に感じられる。

「じゃ、今日もおつかれさま」

大地が缶のプルタブを引き、「ぷしゅっ」と乾いた音が部屋に響いた。早苗もそれに続き、柚子チューハイの缶を開ける。2人のグラスがカチンと軽く鳴って、乾杯。口に含んだ瞬間、喉をすべる冷たさに1日の疲れがすっと溶けていく。

「今日さ、後輩がまたプレゼンでやらかしてさ」

「また? 前言ってた子?」

「そうそう。もうさ、発表の順番間違えて、会場ざわついたからね」

「あー、それは想像するだけで胃が痛い」

そんな他愛もない話を肴に、酒が進む。仕事の愚痴も、どうでもいいテレビの話題も、こうして語り合えば笑いに変わる。

大地が空いた缶をテーブルに置いて、「もう1本いっちゃう?」と聞くと、早苗は少し考えてから、ゆっくりうなずいた。

「明日早いけど……1本だけね」

そう言って、2人でまた冷蔵庫の前に立つ。何を選ぶかという些細な行為が、2人の夜のリズムを形づくっていた。

「もうこれいいよね? 片付けちゃうよ」

「んー、ありがとう大地」

酔いがほんのり回るころには、部屋の灯りも心なしかやわらかく見えた。

互いの言葉にうなずきながら、目と目が合うたび、同じ時間を生きている安心感がじんわりと胸に広がっていく。

この晩酌のひとときがあるだけで、明日もまた頑張れる――早苗はそう思っていた。

少なくとも、この夜までは。