「どうして……こんな形になるなんて思ってもみませんでした」

25年来の付き合いのある後輩、昭(仮名)は遠い目でそう呟いた。彼にはかつて穏やかで優しい妻の有希と娘の真名(ともに仮名)がいた。だが今、有希と真名は家を出ていってしまっている。原因は昭の弟、敬(仮名)だった。

今回私が語るのは、わがままな半ひきこもりの弟を抱えて相続をすることになった、一人の男の転落話である。

遺言書なき相続が招いた兄弟の亀裂

昭と敬は2人だけの兄弟だ。母は2人が幼いころに出て行ったまま一度も会ったことがなく、音信不通。今回、父親が亡くなり、本当に2人だけの家族になってしまったのだ。

ただ、そんな兄弟にでも問題は起こる。それは父の遺産をどう分けるかだ。彼らの父は事故により突然亡くなったため遺言書は存在せず、遺産をどう分けるかが決まらない。

その理由に兄弟の格差がある。

当時、敬は週3日、1日4時間程度のパートをしていたのだが、それ以外は一切自宅から出ない生活をしていた。買い物に出ることも友人や知人と会うこともしない。ある意味ひきこもりに近い生活だった。一方、兄の昭は大学を卒業後ほどなくして結婚。新卒から入社した中堅企業で課長として働きながら、妻と娘との3人暮らしをしてきた。

高校卒業後20年近く実家に寄生しダラダラと過ごしていた敬と、堅実にキャリアを重ねて幸せな家庭を築いた昭。兄弟の格差はもう埋まることがないほどに広がっている。

そんな彼らの父の遺産を整理しよう。遺産は合計3000万円で内訳は下記のようになる。

自宅・・・2000万円
預金・・・1000万円

法律通りであれば、昭と敬は兄弟ということで半分の1500万円ずつ相続することになる。別に難しい計算ではない。しかし、現実は単純ではなかった。