ぴよりんを囲んで語られた従兄弟の悲劇
佑衣さんは直樹より10歳年下で、直樹が沖縄にあった勤務先のコールセンターに赴任していた時に知り合って結婚しました。それまで一度も沖縄を出たことがなかった佑衣さんにとって、慣れない本土での生活は苦労が多かったのではないでしょうか。結婚後1年もすると頻繁に里帰りをするようになり、娘を出産した後は半年以上も家に戻りませんでした。
寂しさをかこった従兄弟は取引先の女性とダブル不倫の関係に陥ったようです。そして、それが会社にばれて大問題となり、失踪した挙げ句に自死を選んだのです。
「バカな息子よね」と言いながら、叔母は涙ぐんでいました。
叔母は本来、人情味があって人の世話を焼くのが好きなタイプです。佑衣さんとうまく心を通わせられなかったのは、「若いお嫁さんだから、私がいろいろ教えてあげないとという意識が強すぎたんだと思う」と反省の弁を口にしました。
佑衣さんが沖縄に戻った直後は先方のご両親の反発が強く、数年間は連絡を取ることもできなかったそうですが、従姪の小学校への入学祝を送ったのを機に手紙のやり取りが復活し、今も年賀状の交換はしていると話してくれました。
「それでももう、あの人たちは“うちの人”ではないわけだから、私の財産はやっぱり茉莉花にもらってほしいのよ」
叔母にそんなふうに言われると、何も言い返せなくなります。
私の気持ちを察した稲垣さんが、「この場で即決してというのはさすがに難しいと思いますから、茉莉花さんには家に持ち帰って検討していただく形にしたらどうでしょう?」と助け船を出してくれました。
後日オンラインで説明された遺言の詳細
その日はそのまま帰京することになりました。そしてその後、稲垣さんは叔母に断わりを入れた上で、オンライン会議で私に叔母の遺言の内容や、そこから生じ得る問題について、かみ砕いて解説してくれたのです。
遺言には包括遺贈と特定遺贈の2通りあり、前者は「全財産」、あるいは「財産の半分」という具合に財産の割合を記述するもの、後者は「誰がどの財産を受け取るか」を指定するものです。
叔母が考えているのは「全部包括遺贈」でした。それだと私は法定相続人と同様の権利を持つことになり、他の相続人と遺産分割協議をせずに叔母の全財産を引き継ぐことができます。
その場合に想定されるリスクは、佑衣さん母娘が納得できず、私に対して遺留分(相続人が最低限受け取れる相続財産の割合)の請求をしてくる可能性があることです。
さらに、全部包括遺贈の場合、私は不動産を含めた遺産を全部受け取るか、そのつもりがないのなら一切受け取らないかのいずれかを選択しなければなりません。後者を選択すると法定相続人同様の権利も失い、遺産分割協議にも参加できなくなります。
正直、どちらを選ぶのも抵抗がありました。そうした中で稲垣さんは私にこんな提案をしました。
