裕美はノートパソコンを閉じ、小さく息をついた。

「やっと仕事納めが見えてきたな」

窓から差し込む冬の光は弱いが、この部屋の日当たりは気に入っている。会社を辞めてフリーになって引っ越してきたとき、間取りとこの光だけは妥協しないと決めたのだった。

せっかく時間が空いたのだから、と裕美はクローゼットから掃除道具一式を引っぱり出した。

1人暮らしの大掃除

普段の掃除は簡単に済ませているが、今日は年末の大掃除モードだ。見ないふりをしてきた場所を、まとめて片づけてしまいたい。キッチンの引き出しを拭き、窓ガラスを磨き、棚の上の細かな埃を落としていく。

もう少しでアラフォーの仲間入り。身体はそれなりに疲れるが、頭のなかはむしろ軽くなっていく。キャリアのこともお金の心配も、とりあえず今は棚に上げて、目の前の汚れだけに集中できるのが心地いい。

「ふう……」

最後に残ったのは、エアコンとベランダだった。踏み台を持ち出し、フィルターを外して浴室で洗う。黒ずんだ水が排水口へ流れていくのを見ていると、1年分のもやもやが一緒に流れていくような気がした。

ベランダに出ると、ひんやりした空気が頬を刺した。ほうきを動かすたび、コンクリートの上で細かな埃がふわりと舞い上がる。しばらくして、インターホンが鳴った。

「はーい」

何か宅配でも頼んだっけ、と首をかしげながらドアを開けると、そこにはマンションの住人らしい年配の女性が立っていた。厚手のニットにグレーのカーディガン姿、眉間にははっきりとした縦ジワが刻まれている。確か、1つ上の階の……

「上の階の鈴木です。あんた、このお部屋の人?」

「……はい、そうですが」

名乗る間もなく、鈴木さんはベランダのほうを顎でしゃくった。