タクシーの中での衝撃の発見

あるとき、律子はいつものように出勤の準備をしていると一足先に駅に向かったはずの夫から電話が入った。

「悪い、ちょっと財布を忘れてた! 定期とかもあるから今すぐに駅に持ってきてくれない?」

「ええ、もうちょっとしっかりしてよ」

律子は不満を漏らしながらも了承し、早めに準備を切り上げる。

バスの時刻を確認するが、タイミングが悪く10分後にしか来ない。このまま遅刻をさせるわけにもいかないので、律子はしぶしぶタクシーで駅まで向かった。

タクシーに乗り込んだときに琢也の財布からレシートが落ちた。すぐに拾い上げるとそれがレシートではないことが分かる。質入証券と書かれていて、そこにははっきりとネックレスと金額が書かれてあった。

日付を確認すると、それは同窓会に行く2日前になっている。

まさか勝手に質に入れたのだろうか?

そんな疑問がすぐに脳裏に浮かんだ。

ネックレスがないと騒いでいたことは琢也だって知っている。そのとき琢也は知らないと淡々と答えていたはずなのに。

勘違いであってほしいと律子は願いながら駅に向かう。駅にいた琢也は律子を確認するとすぐに駆け寄ってくる。

「悪い悪い。ありがとな」

そう言って財布を受け取ると乗り場に向かおうとする。

律子は琢也を呼び止める。

「ねえ、あのさ……」

しかし琢也はめんどくさそうな目を向けてくる。

「愚痴なら帰ってから聞くよ。今はとにかく仕事に遅刻しそうなんだ。お前だって遅れたらやばいだろ。だったら早く行かないと」

そう言って琢也はさっさと行ってしまった。

心が締め付けられるような思いだった。きちんと聞かないといけないことだ。後回しにできることではない。ただこの話をしてしまうと2人の関係がおかしなものになってしまうような予感が律子の中にあった。

●母からもらった大切なネックレスがなくなってしまった律子。夫・琢也の財布から質入証券を偶然見つけ、ネックレスを勝手に質に入れられていた疑惑が浮上した…… 後編【質屋から取り戻した大切な宝物を抱きしめる妻…その場しのぎの嘘を重ねる夫が言い放ったありえない暴言とは】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。