暗い路地で登美子を発見

「お義母さん!」

と、麻里が声を上げたのと、ひよりが吠えたのはほとんど同時だった。登美子は街灯も人気もない暗い路地に座り込んでいた。ひよりはリードを掴む麻里の手を振り切り、すさまじい勢いで登美子に駆け寄っていった。

「ああ、ひより……」

ひよりの姿を見た登美子は嬉しそうにひよりを抱きしめる。寒かったのだろう。登美子の唇は青く、顔色は悪かった。

「お義母さん、大丈夫ですか?」

麻里の問いかけに登美子は申し訳なさそうに頷いたあと、深く頭を下げた。

念のため病院に向かったが、登美子の体調に問題はなく、すぐに帰ることができた。仕事帰りに車で迎えに来てくれた久司と合流し、麻里たち2人と1匹はようやく落ち着くことができた気がした。

「迷惑をかけてごめんなさい……」

ひよりを膝の上に乗せながら、後部座席に座る登美子が項垂れる。助手席の麻里は後ろを振り返り、首を横に振った。

「……無事だったんですからいいですよ。でも、どうして外に出たりしたですか?」

「分からないの。気付いたらいきなり外にいてね。足が痛かったから自分で歩いてきたのだけは分かったのだけど……」

「……何もなくて良かったです」

「……ごめんなさい。何だかずっと夢の中にいるような気持ちだった。何が現実で何が夢なのか分からない感じで……。でもきっとこれが認知症の症状なのね……本当にごめんなさい。2人にもいろいろと迷惑をかけてしまって。ひよりにもひどいことを言ってしまったわ……」

登美子の言葉に麻里は驚きを覚えた。

「ひよりに怯えていた記憶があったんですね?」