遠藤さんの忠告を受けて兄もしぶしぶ矛を収める
その後、実家が実勢価格の4000万円強で売却できたとすると、義母が受け取る分には居住用財産を譲渡した場合の特例が適用され、譲渡所得税はほとんどかかりません。これに対し、私たち兄妹の受け取り分にはこうした特例が適用されないため、それぞれが相続分の譲渡所得税を負担する必要があります。
こうしたことから、遠藤さんは、特例が使える義母が実家の不動産を丸ごと相続して売却し、他の相続人には売却代金から法定相続分に応じた現金を支払う「代償分割」を勧めてきました。そして、「調停を申し立てた場合は納める必要のない税金に加えて弁護士費用まで払わなければなりません。私は、調停は悪手でしかないと思いますよ」とやんわり忠告してくれたのです。
その後、遠藤さんの事務所も入れた調査で父の遺産が実際に義母の言っていた通りしかなかったことが裏付けられました。父は退職後も旅行や趣味三昧でしたし、民間の保険に加入していなかったため、医療や介護もそれなりの費用がかかったようです。これには、強硬に調停を主張していた兄もしぶしぶ矛を収めたのでした。
一息ついて遺産分割協議書を作成してもらった際、遠藤さんが話してくれたのは、専門家による視点の相違でした。
「お兄様が相談した弁護士さんはあくまで法律の専門家ですから、公平な相続や相続財産の隠ぺいはないかを重視する余り、節税までは考えが及ばなかった可能性があります。私も税務の経験は積んできましたが、法律にも精通しているわけではないので、必要に応じて弁護士さんのアドバイスを受けるようにしています。近年は相続の事案が複雑化しているので、専門家同士が連携して対応するケースが増えているんですよ」
