雄大が語った本当の気持ち

「……何で言わなかった?」

雄大がようやく写真から手を離し、佐登子をまっすぐに見た。

「迷ってたから……この歳で産むのも不安だし、会社も余裕があるわけじゃないし。あなたに言ったら、困らせると思って」

佐登子は机の角に視線を落としたまま続けた。

「それに……前に、言ってたでしょ。子ども、嫌いだって」

雄大は意外そうに目を見開き、少しだけ息を吸い込んでから、ぽつりと返した。

「俺、子どもが嫌いなんて言ったこと、あったか?」

「え……」

「まあ、苦手なのは確かだ。どう接していいか分からんし、ちょっと触ったら壊れる気がして怖ぇからな。ガキの頃、知り合いの赤ん坊抱かされたとき、ぎゃんぎゃん泣かれてな。そりゃもう、親の仇みたいに……それ以来、子どもには近づかないようにしてた」

そう言いながら、彼は小さく笑った。佐登子もつられて、息の抜けたような笑みをこぼした。

「そっか、私が勝手に“嫌い”に変換してたのね」

「まあ……そう思わせたのは、俺の言い方が悪かったんだろ。すまん」

「私こそ、相談できなくてごめんなさい」

「いや……」

張りつめていた空気がゆっくりほどけていく。事務所の蛍光灯の下、写真はまたファイルに戻され、佐登子の手元へと返された。

外の雨音はまだ続いている。でも、その響きさえ、今は心地よく聞こえた。