義母絶叫

それは、ごくありふれた午後のことだった。

リビングでアイスコーヒーをすすりながら、海外ドラマを眺めていた遥香の耳に、

「ぎゃああああああっっっっ!!!」

という、地鳴りのような絶叫が突き刺さった。

「お義母さん!?」

慌てて立ち上がり、声のした方へ駆け出す。

あの開かずの間だ。ドアを開けると、そこにはすっかり顔面蒼白、腰を抜かしてぺたんと床に座り込む義母の姿があった。

「大丈夫ですか!? どこか痛いんですか!?」

「む、む、虫! 虫よぉぉぉぉ!」

震える指先が指し示すのは、壁際に積み上げられた段ボールタワー。その中に埋もれたお菓子のパッケージから、こちらを威嚇するように蠢くヤツらがいた。

「ひっ……動いた!動いたわよ今……! 遥香さん、お願い、お願いだからやっつけてぇぇ!」

「お義母さん、深呼吸しましょう。吸って、吐いて。はい、一旦ここから出ましょう」

遥香は彼女を抱き起こし、ゆっくりとリビングに移動させた。そしてゴム手袋とマスクを装着し、殺虫剤を掲げて、勇者よろしく決戦の地へ向かった。

義母が散財の末に築き上げたダンボールの砦をかき分け、問題の袋を回収。袋を二重にして厳重に閉じ込めてから、殺虫スプレーをこれでもかとプッシュ。幸いなことに、発生源は一点に集中していたようで、大惨事には至らなかった。

処理を終えて手を洗っていると、後ろからしゅんとした声が聞こえた。

「……本当に、ごめんなさい……私、虫が大の苦手で……」

「それは十分伝わりました。鼓膜が震えるほどに」

「……遥香さんがいてくれて、よかったわ」

珍しく、しおらしい口調。

「どこから入ってきたのかしら……うち、新築よね……?」

「いや、問題はそこじゃなくてですね」