夫はというと
「母さんにも楽しみがないと、人生つまんないだろ?」
優大はそう言って、昨夜届いた「全自動フェイスマッサージャー」の箱を脇に抱えたまま苦笑いを浮かべた。
「楽しみって言うけどさ、今うちに何個、マッサージグッズがあるか数えてみたことある?」
「うーん……母さん、肩こりひどいからなあ……」
「あのねえ、人間の肩はふたつしかないんだよ?」
「でもなあ……」
もちろん、優大が母親に頭が上がらないのは、分かっている。早くに父親を亡くし、女手ひとつで大学まで通わせてもらった恩。実家の商店を畳んでまで、受験生だった息子のために引っ越しもしたと聞いている。苦労の話を挙げたら、それはもう長編ドキュメンタリーだ。
だからこそ、優大は義母に小遣いを渡すのを惜しまない。しかも、それは夫婦共同の財布からではなく、あくまで優大のポケットマネーから出ているのだから、遥香がとやかく言う筋合いはないのかもしれない。
しかし――。
「リビングの奥、もう家電博覧会みたいになってるんだけど……?」
「うん……まあ……母さん、昔そういうの憧れてたらしいし」
「え、テレビショッピングの世界に憧れてるってこと?」
遥香はもう何度目か数えるのを止めたため息を吐く。
それでも遥香は、義母が憎いわけではない。ただ、困っているだけ。生活スペースをじわじわ侵食してくる未使用家電と、それを全力で擁護する夫。ストレスを感じながらも大して何もできない無力な遥香。
「……ねえ、せめて購入前に相談っていうルール作らない? 紙に書いて貼っとくとか」
「母さん、たぶんその紙の上に何か置くと思う」
「だよね。うん……知ってた」
リビングを見回せば、所狭しと置かれた健康器具たちが誇らしげにこちらを見ているようだった。
そして、遥香はひとつ深呼吸をして、心を決めた。
●芳子のことを憎からず思っていた遥香だが、このままでは生活がたちいかない。山のように積まれた芳子が買いだめたものをそれとなく処分しようと遥香は処分しようと決意するのだが、芳子のモノに対する執着の強さは想像以上で……。後編:【突然絶叫し…嫁姑戦争に発展かと思っていた義母の過剰な浪費癖を終わらせたと「とある事件」】にて詳細をお届けする。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。