義母の浪費癖がわかり……

玄関のチャイムが鳴ったのは、週末の昼下がりだった。

「……またか」

出迎えると、宅配便のお兄さんが、心なしか申し訳なさそうな顔でにっこりと頭を下げる。手には、見覚えのある通販ロゴが入った段ボールが3つ。送り状を見なくても、誰宛かはもう知っている。

「お義母さーん、また荷物届いてますよー」

声をかけると、テレビの健康番組を観ながらストレッチしていた義母が、のんびりと立ち上がった。

「あら、来た? 今度のはね、骨盤が立つって評判のクッションなのよ。それとね、顔に貼るだけで小顔になるっていうマスクと、あと、これこれ。履いて歩くだけでカロリー消費が倍になる靴!」

そう言って、義母は嬉しそうに箱を抱えて自室へと戻っていった。

最初の頃は、「新生活のウキウキだろうな」と微笑ましく思っていた。しかし、日に日に増える義母宛の宅配を見て、遙香はマズいと思い始めた。このままでは、可愛いマイホームがダンボールに占拠されると。

しかも問題は、その買いっぷりに比例しない使用率の低さ。高性能の足裏マッサージ器は開封すらされておらず、姿勢が矯正されるという座椅子の上には洗濯物が積まれている。テレビショッピングで「使わないと損!」と力説されていたはずの健康器具たちは、どれも冬眠状態だ。

「お義母さん、また何か買ったんですか? さすがにちょっと……お金使いすぎじゃないですか?」

思い切って、それとなく指摘してみたこともある。だが、義母は一瞬、ぴたりと動きを止めたあと、すぐに眉を吊り上げ、手を腰に当てて反論してきた。

「遥香さん、私はね、これまでずーっと、欲しいものを我慢して生きてきたの。優大を大学に行かせるために、化粧品だってずっと安物を使ってきたんだから、これくらいの贅沢はいいじゃない」

その理屈はわかる。わかるが、玄関を開けるたびに高級美容家電が届く光景に慣れろというのは、やっぱり無理がある。さらに最近は、「お取り寄せグルメ」にもハマっていて、全国からご当地スイーツやら名店監修の冷凍食品やらが絶え間なく届く始末。

「だとしても、限度がありますよ。今日だって、お義母さんが頼んだ食品で冷蔵庫はいっぱいだし……」

「まあまあ、あなただってこの前のロールケーキ気に入ってたじゃない」

「そうですけど……でも、家電とか美容グッズは使ってないものも多いですし、スペースにも限りがありますから……」

「あなたに迷惑かけてるつもりはないわよ? それにほら、最近の若い人って、あれでしょ、推しグッズとかに散財するんでしょ? わたしだって、いま自分の心と身体を推してるのよ!」

「はあ……自分が推しなんですね……」

遥香はため息まじりに呟きながら、リビングの隅で静かに積み上がっていく未使用の健康器具たちを見つめた。