義母は亡くなり

義母が息を引き取ったのは、ぎっくり腰で動けなくなってから、ちょうど1年後のことだった。

その年の田植えを終えた千佳を待っていたのは、布団の上で浅い呼吸を繰り返す義母の姿だった。声をかけても、うっすらとまぶたが動くだけ。病院へ連れて行く間もなく、彼女は静かに息を引き取った。

その顔は、不思議と穏やかだった。

「ようやったな」

あの一言が、自然と頭に浮かぶ。

嫁と姑。

言葉にすれば、たったそれだけの関係。

だが、私たちの間には長い時間と、無数の気持ちが折り重なっている。
千佳の手の中には、まだ田んぼの匂いが残っていた。

●義母の葬儀に集まる親族たち。その中には義兄と義姉たちもいた。田舎に寄り付くことのなかった彼らが葬儀のさなか口にしていたのは、母への思いではなく、遺産の話ばかりだった。ある種“外の人間”である千佳は自分が遺産について何か口出しをするべきではない。頭ではそう理解していたが、千佳はどこか釈然としない思いを抱えてもいた。

そして千佳は義理の姉から「母は遺言などを残していなかったか」と問われる。思い当たる節はなかったものの、家の中を探してみると出てきたのは義理の母が千佳へ宛てた手紙だった。後編:【「本当に申し訳なかった」嫌味ばかりだった義母が嫁にだけ残していた手紙に書かれていたこと】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。