<前編のあらすじ>

70代の鈴木さん(仮名)は、病気がちになったことをきっかけに遺言書作成を考え始めた。妻に先立たれて子どももいない鈴木さんの法定相続人は、幼い頃から親しい兄の一郎さんと、それほど関係が深くない弟の徹さん(ともに仮名)だ。

鈴木さんは世話になった兄への感謝から、「遺産は全部、一郎に渡したい。あいつには世話になったからな」と専門家である筆者に相談。兄への全財産相続を記した遺言書を作成した。

しかし3年後、弟の徹さんとの距離が縮まり、心境に変化が生じる。「徹にも遺産を残したい」と新たな思いに駆られた鈴木さんは、専門家への相談を待つ時間が惜しく、自身で遺言書を書き換えてしまう。この独断が、後に深刻な争いを引き起こしてしまう。

●前編:【遺産3000万円】家族を思いやって作成した遺言書が関係崩壊の引き金に…相続をめぐり兄弟が陥った悲劇とは

2通の遺言書が見つかり、対立する相続人たち

鈴木さんが亡くなったのは、新しい遺言書が作られてから1年後のことだ。

そして、兄・一郎さんと弟・徹さんは、遺産の整理を進める中で2通の遺言書を発見する。

1通は私の指導のもとに作成された「兄が100%相続する」といった内容の遺言書。いわば旧遺言だ。私が一緒に作成したといった書面も保管してある。

もう1つは、日付も署名など遺言書として有効となる様式が揃っているが、内容に矛盾がある、「兄弟50%ずつ相続する」旨の内容の遺言書だ。こちらには私の関与を証するものがなく、素人が一人で作成したことは誰の目にも明らかだ。

弟・徹さんは後者の遺言が有効だと主張。

「こっちが新しいからこっちの遺言書が有効だろう。だから遺産は兄さんと僕で半分ずつのはずだ」

一方、一郎は憤る。

「ふざけるな! 最初の遺言書は専門家に頼んで作った正式な遺言だ。おまけに後の遺言書は内容が矛盾しているから無効だ」

この主張の食い違いから、話し合いはまとまらず、最終的には裁判所に持ち込まれることとなる。