目覚めたのは病院
里砂子はベッドの上から天井と蛍光灯が織りなす無機質な白のコントラストを眺めていた。
夜間病院に運びこまれた里砂子は吸入と点滴によって事なきを得た。医者の話では、重度の花粉症により喘息の発作が併発したらしかった。喘息持ちの人の場合は、珍しいことではないらしい。発作はすでに収まり、呼吸も落ち着いていたが、今晩は大事をとって病院で過ごすことになっていた。
「……悪かった」
ベッドの横には健一が座っている。どたばたしたせいで酔いはすっかり覚めたのか、あるいは妙に明るい蛍光灯の光のせいか、表情は心なしか青白く見えた。
「なに、今さら」
「ごめん。軽く考えてた。言い訳にもならないけど、会社の花粉症の人とかは鼻水が止まらないとか言って仕事は普通にしてるから、里砂子みたいなのは大げさだって、思っちゃってた」
里砂子は何も答えなかった。健一がいくら反省したところで、彼が里砂子に向けた無神経な言葉の数々は消えないし、はいそうですかと許すこともしたくない。
「これからはちゃんとサポートできるように気をつけるよ。家事だって、里砂子に任せっぱなしにしないようにする」
「言うだけなら簡単でしょ」
「分かってる。ちゃんと行動で示すから」
「そう。期待はしないでおく」
里砂子が言うと、健一はゆっくり立ち上がり、病室の扉へと向かっていった。
「また明日の昼前くらいに迎えにくるから」