気遣う様子も見せず

そんな健一が玄関で靴を履きながら、「そうだ」と里砂子を見る。

「……行ってくるけど、晩飯はどうしたらいい?」

「……多分、準備できそうにないから買ってくるとか、自分でどうにかして」

「分かった。じゃあ行ってくる」

もはや返事をするだけの気力もなく、里砂子は玄関横の戸棚からストックのティッシュボックスを取り出して、ベッドに戻った。

1日休んだおかげで夜には症状もずいぶんと落ち着いた里砂子が、ベッドから起き上がり、鼻をかんでリビングへ向かうと、スーツ姿のままの健一がバラエティー番組を見ながらコンビニで買ってきたらしい弁当を食べていた。

「おかえり」

「おう、ただいま。体調どう?」

「うーん、まあまあかな。明日明後日休めば月曜は大丈夫そう」

「そう。よかったね」

里砂子は健一の向かいに腰かける。広げたままになっているビニール袋には、弁当の包装や割りばしの袋が無造作に突っ込まれていた。

「私の分は?」

里砂子が問いかけると、健一は箸を止め、喉の奥で「え」と声を漏らした。

「え、買ってきてないの?」

「……いや、自分でどうにかしろって言ってたから。いるか分からなかったし」

「私はいつも、あなたの食事作ってるよね?」

「それとこれは別だろ」

「別じゃないけど」

里砂子は深くため息を吐いた。

「なんかもっとさ、体調不良で休んでる人を労わろうって気持ちはないの? 別に付きっ切りで看病しろって言ってんじゃないんだけど、そんなに難しい?」

「そんなイライラするなよ。普段ダイエットがどうとかって言って食べなかったりするんだしさ。その延長線だと思えばいいんじゃないかな」

健一はそう言って残っていた弁当をかき込むと立ち上がり、逃げるようにシャワーを浴びに行ってしまう。追いかけて文句を言う元気はなく、里砂子は健一が開けっ放しで出て行ったリビングの扉をにらみつけていた。