娘はどこにいるのか

だがまだ何も解決はしていなかった。有希の居場所が分かったわけではない。

「有希ママ、これって」

静香の声がして、夏子は顔を上げる。静香はローテーブルの上に置いてある卓上の鏡の下から、長方形の紺色の紙を抜き出した。見せてもらうと、紺の紙には金の箔押しで〈Lounge AZZURRO〉と印字してある。ネットで調べてくれた静香によれば、六本木にある高級ラウンジらしかった。

「もしかしたら、有希、ここで働いてるのかも」

静香の考えには夏子も納得だった。ああ見えて意外と小心者の有希にキャバクラ勤めができるとは思えなかったが、大学でできた友人たちに流されてしまったと考えれば、そこまでありえない話ではないだろう。

とにかく、有希の居場所を突き止めなければいけない。親として、娘の無事を確かめないといけない。

「静香ちゃん、ここまでありがとう。私、ちょっとお店まで行ってみるよ」

夏子は立ち上がり、静香から紺色のカードを受け取ってお礼を言った。

ショップカードよろしく深い紺色を基調としたソファやテーブルが並び、ところどころ金色の装飾が施された店内はいかにも高級そうな空間で、夏子はめまいがしそうになる。女性の1人客が珍しいせいか、やや怪訝そうな顔をしたあと笑顔をつくった黒服に声をかける。

「こちらに、伊藤有希という子が働いていませんか?」

黒服はいやぁと首をかしげていたが、夏子が「母です」と告げると真剣な顔になり、バックヤードへ下がっていった。その場で待っていると、恰幅のいい体を上等そうなスーツで包んだ壮年の男がやってきて、夏子に丁寧にお辞儀をした。渡された名刺には店のマネージャーだとある男の後ろには、ばつが悪そうな顔で下を向いている有希の姿があった。

夏子は有希とともにソファ席に通されて腰を下ろした。スーツの男は有希に何か耳打ちしたあと、夏子にもう一度お辞儀をして下がっていった。