とぼける犯人
「史織、ちょっといい?」
パーティは何事もなくお開きになり、みんなが楽しそうに帰っていくなか、さくらは史織の肩をそっと叩いた。
「ん? どうしたの?」
史織は振り向き、柔らかい笑顔を見せた。でも、その目にはどこか警戒心が浮かんでいるような気がしてしまう。
「少し話したいことがあるんだ。少しだけ、いい?」
さくらは努めて冷静な声を作った。史織は小さくうなずいて玄関に残り、他のみんなを見送ったあとでさくらの方を向いた。
「私の家の写真、SNSに載せたの……史織だよね?」
直球だった。
「え? なに言ってるの?」
「とぼけないで。さっき、無断投稿のアカウントを『その人が持ってるアカウントをまとめてブロックする』でブロックしたの。そうしたら、見れなくなったのは史織のアカウントだった」
史織の表情が一瞬固まった。でも、すぐに作り笑いが浮かべられた。
「いや、たまたまじゃない? 私、そんなことするわけないし……」
「史織、もういいよ」
さくらは首を横に振った。2人は黙りこんだ。
「なーんだ、バレちゃったか」
だが、長く重い沈黙のあとで史織はあっけらかんとそう言った。さくらは肩透かしを食らったようにその場から動けず、声を出すこともできなかった。
「……さくらが結婚したって聞いたとき、正直すごく複雑だった。なんで同じ大学出たのに、さくらはいい会社に就職して、結婚相手まで理想的で……こんな素敵な家に住んで、幸せそうで……なんで全部うまくいくんだろって。むしろ私、なんか悪いことしたって、ずっと思ってた」
「で、でも……あのアカウントは私が結婚する前から投稿してたよね?」
「そうだね。最初は、ほんの気まぐれだった。旦那は全然稼いでこないし、姑は子どもはまだかって遠まわしに聞いてくるし、とにかくイライラしてたから、気分転換にドレスアップして、良いレストランへ行ったんだよね。その写真をSNSに載せたら、みんなが『すごい』『憧れる』って言ってくれて……それが嬉しかったの」
「……だから、私の家の写真を無断で?」
「ごめん……」
「私が怒ってるのは、それだけじゃないよ」
史織の肩がビクリと震える。
「投稿したことよりも、私が晴美を疑うように仕向けたこと。あれが、一番許せない。史織は人を疑わせて、ほかの友達との関係を壊そうとした。私は……そんな人を、もう友達とは思えないよ」
思わずさくらの目に涙がにじんだ。
「……さくら」
「史織、あのアカウントも写真もぜんぶ消して」
「……わかった」
「削除したら、もう帰って」
それ以上は何も言えなかった。史織はしばらく立ち尽くしていたが、やがてさくらに言われた通りにアカウントを削除。それから無言のままドアへ向かい、静かに家を出ていった。
さくらは玄関のドアが閉まる音を聞きながら、深く息を吐いた。心の奥に、ぽっかりと穴が空いたような感覚が広がっていく。
本当の友達だと思っていたのに。