大切な祝日です
「イースターのためです」
「……イースター?」
「はい。キリシタンにとって、とても大切な祝日です。私の家族はみんなフィリピンにいて、この時期はみんなで一緒に過ごします」
あまり聞きなじみのない祝日だった。本社社員も同じだったのか、スマホを取り出して調べると、ネットに書かれていることを読み上げた。
「十字架にかけられて亡くなったイエス・キリストの復活を祝う復活祭、だそうです。たしかにキリスト教徒からすれば、重要な日ですね」
とはいえ、クリスマスだからと言って仕事に来ないことが許されないように、イースターだからと言ってイレギュラーな長期休暇を取得する理由にはならない。慶弔休暇とは訳が違う。
「だからって、2週間も休むのが許されるわけないだろ?」
「フィリピンではイースターの時期は特別で、家族と過ごす時間が最も大切にされます」
泰司とアンヘルは本社社員に訴える。本社社員は面倒そうに腕を組み、「そうですねぇ」と言ったきり黙り込んだ。
イースターがキリスト教徒にとって大切な行事であることは、なんとなく分かる。だが泰司たちにとってこの4月がとても忙しく、大切な時期であることも事実だった。
「アンヘルさんは子どもたちにも頼りにされているし、俺たちだって頼りにしている。だから急にいなくなられると困るんだよ」
「たしかに、現場としては痛手ですね。急に抜けられると業務に支障が出るのは事実ですし、休みとなると、有給とかはまだないので、ただの欠勤扱いになるんですよね」
泰司が言うと、本社社員はオウムのようにくり返してうなづいた。
「どれも私のせいではないでしょう?」
アンヘルの声には、明らかにこちらを非難するような調子があった。
「この塾に来たとき、私は伝えていました。でも、塾長には伝えていなかった。それは会社側のミスです。私のミスじゃない。私は、ただ自分の大切な時間を大切にしたいだけです。フィリピンなら、休ませてもらえます」
「そうかもしれないけど、ここは日本なんだよ。こっちにも現場の事情がある。日本で働いているんだから、したがってもらわらないと困るんだ」
「でも私、日本人ではありません。フィリピン人です」
文化の違い。働き方の違い。何が正しくて、何が間違っているのか。話し合いは、平行線をたどるばかりで遅々として進まなかった。