<前編のあらすじ>

45歳の泰司はいわゆる地域密着型の学習塾で塾長を勤めて3年になる。そんな泰司の職場に「多文化共生の一環」としてフィリピン人女性教師のアンヘルがやって来た。

戸惑う泰司を尻目に、アンヘルは持ち前の明るさと英語に加えスペイン語と日本語を話せるという明晰な頭脳で、職場の一員として頭角を表していく……。

かに思えたのだが、年度初めに「2週間の休みが欲しい」と申し出てきた。多忙な時期である。休まれては困ると告げる泰司だが、アンヘルもすでに本社に伝えてあると譲らない。

とはいえ「無理なものは無理だ」と、アンヘルの要求を泰司ははねのける。静かに部屋を出ていったアンヘルに「理解してくれたもの」どこかでそう思っていた泰司だが、後日本社から連絡が入る。

「アンヘルさんからパワハラをされたと訴えがありました」

電話の相手は、泰司にそう告げるのだった……。

前編:外国人講師から「4月に2週間休みたい」と“まさか”の申し出……学習塾の塾長が直面した文化の壁

話し合いの場が設けられ

小さな会議室の空気は、息苦しいほどに重かった。泰司の向かいにはアンヘルが座り、その隣に本社から派遣された若い社員が腰かけている。

アンヘルは3人で話すことはおかしいと不満を漏らしていて、泰司自身もハラスメントの当事者同士が顔を合わせて話し合うなんて話聞いたことがなかったが、どうやら本社はこの件を一刻も早く収束させたいようだった。

「えー、では早速本題に……今回、アンヘルさんが休暇の申請をした際、山田塾長から頭ごなしに否定され、それをパワハラと受け取ったという報告がありました。まあ、ひとまずは双方の意見を聞いたうえで、解決策を模索したいと思います」

泰司にはわざわざ呼び出されるようなことをしたつもりはない。忙しいこの時期に、こんなことで時間を取られているわけにもいかない。

「俺はパワハラをしたつもりはない。単に業務上の判断として、4月の忙しい時期に長期休暇を取るのは難しいと伝えただけだ」

アンヘルが静かに視線を上げた。

「塾長、私の話を聞いてくれませんでした」

「落ち着いてくださいよ。一応、会社の規則だと、慶弔休暇のようなやむを得ない場合は、数日の休みを取ることもできるとあります。ちなみに、4月18日からの休暇の理由は、塾長に話しました?」

アンヘルは首を横に振る。じゃあ、と本社社員に促され、アンヘルは深く息を吸う。