出てきた父の通帳

墓のことはいったん保留し、礼子たちは父の暮らしていた家を訪れていた。

「はあ……お父さん、もうちょっと片付けといてくれてもよかったのに」

父の遺品整理を始めてから早3時間。進捗は……お察しの通りだ。写真、古い手紙、謎のガラクタ、どこで手に入れたのかわからない海外の置物。とにかく、片付けるそばからカオスが増していく。

「礼子、こっちもすごいぞ」

夫の亮平が古びた箱を開けながら、驚いたように言った。

「なに?」

「通帳が、えっと……ざっと見ただけでも5冊はある」

「えっ」
慌ててのぞき込むと、確かにいろんな銀行の通帳がずらりと並んでいた。

「お父さん、口座作るの好きだったのかな……?」

「いや、収集癖みたいに言うなよ」

それにしても、これだけの通帳があるということは、それなりの金額が入っている可能性もある。礼子は急いで中身を確認した。

「……えっ」

「どうした?」

「全部足したら……4、500万円くらいあるかも」

「マジで?」

亮平も驚いて礼子の手元をのぞき込んだ。

「なあ、礼子。このお金でなんとかあの区画にお墓建てられないかな」

「それだわ……!」

礼子は内心で拳を握った。これなら、あの広すぎる区画に墓を建てることができるかもしれない。

「よかった。これでひと安心だな」

「そうね。お墓はなんとかなりそう」

ほっと息をつき、頬を緩めた亮平と手を握り合った。