<前編のあらすじ>

礼子の父は破天荒を地で行くような人物だった。

豪快過ぎるあまり、関わる人にしばし迷惑をかけ、亡き元妻には愛想を尽かされたりもしたが、憎めない人柄で愛されてもいた。

そんな父が87歳で亡くなった。

葬儀は式場から参列者に供される食事、遺影の撮影、会場で流すBGMまで、父によって、すべて事前に手配がなされていた。

傍若無人なようでいて、サービス精神は忘れない。まさに父らしい最後。そう思う礼子たちだったが、遺品整理が進むにつれ、途方に暮れることになる。

父は墓まで用意しようとしていたのだが、遺族に残されたのは偉人の墓と見まがうような広さの墓地だけで、墓石はまだ建っていなかった。

「俺の墓のことは心配いらんぞ」

生前、父は自信満々に礼子にそう語ったのだが、全然大丈夫ではなかった。いったいどうすれば良いのか。礼子と夫の亮平は“破天荒な父”の後始末に奔走することになる。

前編:「偉人の墓みだいだな…」娘を唖然とさせた、破天荒な父が遺した「意外すぎるもの」

1200万円かかる!?

「……それで、いくらかかるんですって?」

礼子は目の前の書類をまじまじと見つめた。そこには見たこともないような数字が書かれている。

「……ええと、せっ、1200万円!?」

口に出した瞬間、思わず喉が詰まった。桁が違う。家でも買うんですか? というレベルの金額だ。

亮平が下調べしてくれた情報によると、一般的な墓の平均購入価格は約150万。そのうち永代使用料、いわゆる土地代を抜いた墓石費は100万円弱だそうだ。つまり、提示された金額は平均的な墓石の12倍。

「……これ、桁間違ってません?」

亮平も書類をのぞき込みながら言うが、寺の住職が呼んでくれた石材店の店主は穏やかに首を振った。

「いえ、今回は少し広めの区画ですので、それに見合うお墓を建てるとなると、どうしてもこのくらいの費用がかかるんですよ」

「少しどころじゃないんですけど……」

「まあ、故人が生前に選ばれた区画ですからねえ……」

石屋は申し訳なさそうに言うが、こちらとしてはまったく納得がいかない。

「いやいや、うちはそんなに立派な墓を建てるつもりはないんですよ。住職さん、せめて区画を半分くらいにできませんか?」

立ち会ってくれている住職に向かって、礼子は食い下がった。しかし住職は申し訳なさそうに眉を下げる。

「申し訳ありませんが、墓地の売買や譲渡は禁止されているんです。墓地の区画を返還していただくことなら可能ですが……」

「返還?」

「はい。ただ、故人から生前お支払いいただいた永代使用料をお返しすることはできないんです……」

礼子は思わず亮平と顔を見合わせた。

「つまり、『タダで』引き取ってもらうしかないってこと?」

「……はい、そうなりますね」

「お義父さん、買って満足してたのかな……」

「……ありえるね。まあ、もうしょうがないから、なんとかするしかない……けど、ひとまず保留、でいいよね?」

父の斜め上をいきすぎる置き土産のせいで、礼子はもう何度目か分からなくなった深い深いため息をつく。亮平も半笑いを浮かべながらうなずいてくれた。