「まったく……最後の最後まで派手なことをしてくれたわね」

礼子は喪服の襟元を直しながら、ため息交じりに呟いた。

父・竹岡雄造、享年87。

最期は、礼子たち家族に見守られながら老衰で亡くなった。大往生と言っていいだろう。そんな父の葬儀が無事に終わり、礼子は夫の亮平と共に用意された控室で一息ついているところだった。

いや、「無事に終わった」と言っていいのかどうか。少なくとも、一般的な葬儀とはだいぶ趣が違っていたと思う。何といっても、葬儀中に流れるBGMが父本人の歌声だったのだ。生前、カラオケが大好きだった父は、自分で歌った演歌のCDを作り、それを葬儀で流すように指定していたらしい。

「波の谷間に~命の花が~」

会場に響き渡る、妙に気合いの入った歌声。おそらく、本人としてはプロ歌手顔負けのつもりだったのだろう。バックに流れるのは、これまた父がこだわって選んだという、やけに大仰なオーケストラアレンジだ。

「お義父さん、最後までサービス精神旺盛だったな」

亮平が肩を震わせながら言った。

「ほんとよね……生前予約までして、ここまで準備してたなんて」

そう、父はなんと自分の葬儀を生前に予約していた。式場、料理、遺影の写真、そしてこのBGMまで、すべて本人の手配済み。礼子たちがやったことといえば、ほぼ指示通りに動くだけだった。  こんな風変わりな葬式で不謹慎だと叱られないか心配だったが、集まった親戚や参列者のほとんどが笑っていた。

「まったく、雄造さんらしいよ」

「最後まで笑わせてくれるんだから」
親戚たちは肩を叩き合いながら微笑み、近所の人たちも「いやぁ、明るいお葬式でいいねぇ」と感心していた。

普通、葬儀といえばしめやかなものだが、父のそれはどこか朗らかで、まるで宴会のような雰囲気だった。参列者たちを見送った後、控室で荷物をまとめながら、礼子はふと思い出した。

「ねえ亮平、前に話したの覚えてる? お父さんが、昔、町内ののど自慢大会で優勝旗を持ち帰った話」

「ああ、あの話な……本当は町内で回すものだったのに、『うちの家宝にする!』って離さなかったってやつだろ?」

「そうそう! で、翌年になっても返さないから、実行委員が家まで取り返しに来たのよね」

礼子は思わず吹き出した。