離婚になったワケは
「いえ、大丈夫です。真剣に聞いてますから、安心して話してください」
健人は麗奈に礼を言い、再び深く息を吸う。
「前の妻は、子どもが好きでした。それにたぶん、両親からのプレッシャーみたいなものもあったんだと思います。だから結婚してすぐ、妊活をしたいと言われたんです。でも、僕はどうしても無理だった。自分がうまく父親をやれる自信が湧かなかったんです」
健人は力なく項垂れた。何かを掴みかけたように曲がったまま固まった指が怯えるように震え続けている。
「親のせいにするつもりじゃないんですが、自分が親からまともに愛情を注がれてなかったせいか、ちゃんと子どもを愛してやれる自信がなくて、妊活に否定的な態度を取ったんです。そうしたらだんだんと距離ができて、結局、離婚ってことになりました」
心臓が不規則に脈打っていた。
マッチングアプリで婚活をするとき、年上がいいだろうとあたりをつけていたのもこういう理由だった。失礼な話だが、もう子どもを作りたいなんて思わない年齢だろうという女性のほうが気が楽だった。
だが、健人は麗奈のことを真剣に好きになった。だから、そんな安易な考えではなく、きちんと全てを話したうえで、自分との将来のことを考えてもらえたらと思った。