<前編のあらすじ>
3年前に離婚した36歳の健人は友人にうながされるまま、マッチングアプリを始めた。最初に出会った女性が年上の麗奈だった。
楽しそうに健人の話を聞いてくれる麗奈。そのしぐさの一つひとつや漂う、どこか不思議な雰囲気にも健人は惹かれ、二人は逢瀬を重ねるようになる。
前編:「母が包丁は危ないっていうので」マッチングアプリで出会ったミステリアスな40歳女性にバツイチアラフォー男が惹かれたワケ
聞いた上で判断してください。
健人と麗奈の関係は順調だった。過ごしている時間の1秒1秒が楽しく、麗奈の表情のひとつひとつが愛おしいとすら思った。
だが上手くことが運べば運ぶほど、解決しなければいけない問題がはっきりと目の前に立ちはだかってきた。健人は、逃れることができなかった。
「考え事ですか?」
いつの間にかこちらをのぞきこんでいた麗奈に、健人はかぶりを振った。
「あ、いえ……」
「もし私に不手際があったら何でも言ってくださいね」
「いえ、そんな、とんでもない。麗奈さんは僕にはもったいないくらい素敵な人です」
慌てて口を突いて出た。麗奈は視線を泳がせ、うつむく。耳がほんのりと赤くなっている。健人は「すいません。今のは」と言いかけて言葉を呑み込んだ。否定するようなことではない。むしろ事実だ。
「あの、麗奈さん」
完全個室になっているテーブル席に、健人の声が真っ直ぐ響く。口のなかが妙に渇いていた。
「結論から言いますと、僕はあなたのことが好きです。ぜひお付き合いしてもらえたらと思っています。ただ……」
麗奈も真っ直ぐに、健人のことを見つめ返している。
「僕がバツイチなのはご存知ですよね」
「はい。プロフィールにも書いてありましたし、初めて会ったときも、話してくださいましたので」
「でも、何で離婚したかまでは言ってませんでしたよね」
「そうですけど、無理してお話されなくてもいいと思ってます。個人的なことですし、過去のことですから」
「いえ、聞いてください。聞いた上で、判断してほしいんです」