未納額が膨らむにつれてマンションの運営も逼迫

津島さんはマンションの地権者の一族ですが、居室を借りている立場で、実質的なオーナーである奥さんのお兄さんとどちらが管理費や修繕積立金を負担するかで揉めているようでした。

とはいえ、未納額は既に200万円を超え、マンションの運営はそんな個人的な事情に構っていられないほど逼迫しつつありました。小規模マンションだけに、1戸の未納が与える影響はバカにならないのです。

私が役員に就任して初めて開催された理事会で、管理会社の担当者から津島さんの未納問題について、これまでの経緯が説明されました。管理組合としても管理会社を通して支払いの催告をしてきたけれど、暖簾に腕押しだったこと。さらに問題なのは、管理費未納には5年という時効があり、協議もできず債務承認書も取れないため、このまま放置しておくと時効消滅によって回収できない管理費が出てくるという話も出ました。

これにいち早く反応したのが中村さんでした。

「どうして4年以上も放置してきたんですか? すぐに訴えるべきです!」

さすが中村さん! 私も声にこそ出しませんでしたが、心の中で快哉を叫びました。

津島さんは60代後半くらいのご夫婦で、30代が多いこのマンションの住民の中では浮いた存在です。マンション規約に違反する大型犬を飼っていて、朝晩の散歩の行き帰りには堂々とエレベーターに乗せたりしています。私も一度、犬と連れた奥さんとエレベーターに乗り合わせ、唯奈と怖い思いをしたことがありました。

いくら地権者一族だからといって忖度するにも程があります。そんな気持ちで、「法的にはどうなんでしょうか? 管理組合として訴訟を起こすことはできるんですか?」と尋ねると、担当者は訴訟も可能だという見解を示した上で、「必要なら当社が契約する弁護士から説明してもらいます」と応じました。