<前編のあらすじ>

仕事に邁進し一人生きてきた美弥子は40代も後半に差し掛かり、言いようのない虚無感に襲われる。そして始めたのが婚活だった。

美弥子にはどうしても譲れない条件があった。「年収600万円以上」である。

そんな美弥子の前に相談所から紹介された同じく40代の谷本が現れる。誠実な谷本、しかしネックは年収だった。「金が理由」と谷本からの交際の申し出を断る美弥子。彼女はなぜそこまで金にこだわるのか。

美弥子は谷本に金に振り回された自身の過去を語るのだった……。

●前編:「年収600万以上は何があっても譲れない」相手の年収にこだわり、婚活を続けるアラフィフ女性、その結末は

もう少しお話をしたいんです。

美弥子の言葉に谷本は固まっていた。

恐らくフラれるにしてもここまではっきりと金のことを言われたことはなかったのだろう。

「ごめんなさい。本当なら今回のデートすらお断りしないといけないと思ってました。でも谷本さんがとても誠実な方だったので、きちんと会って、正直にお伝えしないといけないと思いました」

「……いえ、そうですか。そうだったんですね……」

谷本はもしかしたら脈有りだと思っていたのかもしれない。思わせぶりな態度をしたつもりはなかったのだが、誤解を与えてしまったことに罪悪感を覚えた。

「それではこれで失礼します」

美弥子は谷本のところから去ろうとした。しかし谷本は美弥子を引き留めた。

「あ、ちょっと待ってもらっていいですか。もう少しだけお話しをしたいんです……」

谷本の言葉に美弥子は戸惑った。自分の気持ちは伝わったと思っていたし、谷本のような男性ならば別に自分にこだわることもないだろうとも思っていた。

「あ、違いますよ。少しだけお話しをしたいと思ってるだけです。正直お金目当ての女性が悪いとは思ってません。ただ僕が思うお金好きの女性と笠原さんは違うような気がするんです。金遣いが荒く贅沢が好きな感じには見えないですし、しっかりと仕事もしています。そんな笠原さんがどうしてそこまで経済力にこだわるのか、ちょっと興味がありまして」

美弥子には谷本が言いたいことは十分にくみ取れた。だが、話すかどうかは迷っていた。

「……しっかりと諦めさせてほしいんです」

しかし力なく笑う谷本がこぼした本音は、美弥子の胸を静かに打った。誠実な人間である彼に、自分も誠実でいたいと思った。

「分かりました」

「ありがとうございます」

すると谷本は携帯で店を探し出した。

「あ、このまま、歩きながらで大丈夫です。そんな長い話でもないですし」

「でも、寒くないですか?」

「歩いてたら温まりますよ」

話し終えたらすぐに帰ると決めていた。