英語ぺらぺらなんですか!

何かしなくちゃという焦燥感はあった。むしろ結婚式に行って、沙織や佑香や宏美の様子を知って、その気持ちは強まった。しかし思うだけで何をしたらいいか分からないまま、満里奈は漫然とした日々を過ごし続けていた。

「Excuse me.」

と、声をかけられたのは、クライアントとの商談を終え、新卒の智美と新宿駅の改札を出たときだった。

振り返ると、大きなリュックを背負った外国人女性2人組が満里奈のすぐ後ろに立っていた。

話を聞けば、浅草に行きたいがどの電車に乗ればいいか分からず困っているとのことで、満里奈は彼女たちが見せてくれたスマホを見ながら、乗り換えの仕方を英語で伝えた。

「Oh, thanks!」

「You’re welcome. Have a nice trip!」

2人組は手を振って改札へと入っていく。満里奈のとなりでは、一部始終を見ていた智美が目を輝かせていた。

「満里奈さん、すごいですね! 英語ペラペラなんですか!」

「え? あ、まあ、誰にも言ってなかったか……」

「もしかして帰国子女とか?」

「違うよ。たしか、5年前くらいからかな。本当にちょっとずつだけど、勉強してて」

「ちょっとずつの勉強で、あんなに喋れるようになるのすごすぎます」

「そんな大したことしてないよ。サブスクで映画とかドラマを見るときに英語音声の英語字幕にしてみたりとか、そんな感じ」

「へぇ~、やっぱみなさんちゃんと色々考えて勉強とかしてるもんですよね」

智子はずいぶんと好意的に解釈してくれたが、満里奈にとってはただの推し活の一環だった。