<前編のあらすじ>

アラサーの満里奈は日韓共同の6人組アイドルグループLumiStar (ルミスター)、そして、メンバーのアユンを推していた。しかし、惜し活をはじめて7年、アユンが突如卒業する。しかも、そのわずか2週間後には若手実業家との婚約を発表することに。

グッズ購入やコンサート参加のため満里奈は毎年200万円近いお金をそして何よりも大切な時間をささげていた。満里奈は突然の推しの喪失に茫然自失となる。そんな折に誘われたのが同期入社した沙織の結婚披露宴だった。

久しぶりにそろう同期の面々。あるものは寿退社し子育てに追われ、あるものは起業し成功への道を歩み始め。皆、人生の目標に向かって行動を起こしていた。

それに引き換え推し活を優先した満里奈はいまだに下っ端として働いている。

「自分が惜し活にささげた7年は空虚な時間だったのではないか……」

満里奈は一人苦悩する。

●前編:「目標なんて何もなかった」推しが突然卒業し、アラサー女子が気づいた”惜し活”にささげた7年間の代償

満里奈は二次会などには参加せず、結婚披露宴が終わると真っ直ぐ帰ることにした。これ以上、成功しているかつての仲間たちとの時間を過ごすのは苦痛だった。

電車に揺られながら、満里奈はアユンと出会ったときのことを思い出す。

大学卒業後、今の会社に入社し、膨大な仕事量と厳しい上司に追い詰められて何か支えがないと立っていられないような状態だった。そんなときに出会ったのがルミスターであり、アユンだった。テレビで見ていたアユンは満里奈にとって太陽のような存在だった。慣れないダンスに悪戦苦闘しながらも、少しずつ上達をしていき、周りから評価を得ていく姿は満里奈にとっての希望だった。

だから、満里奈も面倒で退屈な毎日を乗り越えることができた。どれだけ辛い状況でもアユンは笑顔を絶やすことはなかった。その笑顔に満里奈も救われていた。

きっとアユンがいなかったら、今のように仕事を続けることはできなかっただろう。今、こうして当たり前に仕事ができているのはアユンのおかげだった。

だからアユンを推した日々に後悔はない。卒業後、ファンを切り捨てるように即結婚したとしても、推し活が終わったあと、満里奈の人生に何も残っていなかったとしても、満里奈とアユンが過ごした日々の輝きは変わらない。

悪いのは全て自分だった。アユンを理由に怠けていた。恋愛だって、仕事だって、推し活をしながら一生懸命になることはできたはずだ。

満里奈はいつしか、アユンを現実逃避の道具にしてしまっていた。上手くいかない現実から目を背けて、着実に成功をつかみ取っていくアユンに自分を重ねて悦に浸っていただけだ。

「……情けないな」

沈んでいたら、電車を乗り過ごしそうになり、満里奈は慌てて電車を下りた。閉まりかける扉をすり抜けて駅のホームに出る。慣れないヒールを履いていたからか、足がもつれて地面に転ぶ。

ストッキングが破れ、擦りむいた膝には血が滲んでいた。