更新されなくなったSNSを再読み込みしては溜息を吐く。片付けようと思って片付けられていないポスターやグッズが満里奈のことを見下ろしている。
推しが卒業した。先月のことだった。
7年前、何気なくサブスクで見始めた日韓共同のオーディション番組で、満里奈はアユンの存在を知った。その天真爛漫な性格とダンスや歌にひたむきに努力する姿勢に魅了された。
その後、オーディションをぎりぎりのところで勝ち抜いたアユンは他の6人のメンバーといっしょに「LumiStar (ルミスター)」というグループでデビューをする。
以来7年間、満里奈はずっとルミスターとアユンのことを応援し続けてきた。
しかし、そんなアユンが先月のコンサートで卒業をした。この日を迎えるまで、満里奈の心が落ち着くことはなかった。
アユンはルミスターを必ず世界的なグループに成長させると宣言して頑張っていた。しかし公式ホームページとSNSで突然の卒業発表がされたのが、先々月のこと。予定されていたツアーの東京公演は急遽アユンの卒業コンサートになり、アユンはたくさんの声援に見送られながら、案外あっさりと卒業していった。
正直、満里奈は目まぐるしい変化についていけていなかった。グッズにイベントに、毎年200万円近いお金と、許す限りの全ての時間を使って応援し続けてきた。それなのに、あまりにもあっさりとした飛び立っていたアユンに満里奈は置いてけぼりを食らった気分だった。
しかしそれだけでは終わらなかった。卒業してから2週間後、アユンが青年実業家の男性と婚約したと発表したのだ。
もちろんネットでは批判が殺到した。
〈卒業ってそういうことね、、〉
〈ファンより男を選んだってこと。いや、金かwww〉
〈ファンへの裏切りだろ〉
〈許さない〉
アユンの報告と荒れるSNSを目の当たりにして、満里奈の胸のうちには怒り、悲しさ、悔しさ、呆れ、全ての感情がごちゃ混ぜになった巨大な波が押し寄せた。しかしそれが過ぎ去ると、満里奈の心は更地になった。
7年、推しとともに歩んできた時間は崩れ去った。
満里奈のなかに残ったものは、もはや笑ってしまうくらいに何もなかった。
グッズとポスターが並ぶ“神棚”に背を向ける。懲りることなく再読み込みを続けるSNSは結婚報告の忌々しい2ショットを、いつまでもトップに表示し続けている。