<前編のあらすじ>

博美(43歳)は、年末に家族で義実家へ帰省したが気分が重かった。きちょうめんで何事もきっちりするのが性分の博美は、田舎特有のわいざつな義実家の雰囲気が苦手だった。

さらに義母はお小遣いを渡すなどして、中学生の息子を必要以上に甘やかす。料理は土が残ったままの野菜を洗いもせずに使っている。それとなく指摘すると、「この土地の土を汚い呼ばわりするなんて!」と義母に逆ギレされる。悪い人ではないが、とにかく気が合わないのが悩みの種だった。

夫に愚痴を言うが、どっちつかずの態度でなだめるだけで、そのまま年を越すことになった。

●前編:義実家で餅を喉に詰まらせた義父、もしもの時に家族が「一番取ってはいけない行動」

義母の仰天行動

まるでわざとやっているんじゃないかと思うほど、愛子の仰天行動は続き、博美はひたすら家に帰りたいという思いを募らせていった。

こたつに入りながら大きなおならをしてはげらげら笑い、年が明けるころには独りいびきをかいている。日が昇ってから向かった初詣はわれ先にと甘酒をもらいに走りだし、おさい銭ではよく見えないねとポケットから取り出した小銭をすべてさい銭箱に放り投げた。

もうこれ以上下がないほどにテンションは下がっていたが、あと一晩だけ寝てしまえば、翌朝にはもう義実家をたつことができると、ゴールがようやく見えたことで博美はほんの少しだけ元気を取り戻しつつあった。

元旦の夜は例年通り、お雑煮を作る。もちろん博美も手伝っている。居間からは正月特番のめでたい笑い声が聞こえていた。

無言で調理をしているとき、市販の丸餅を準備する愛子に博美は声をかけた。

「……ちょっとお餅が大きくないですか?」

毎年使っているお餅よりも一回りサイズが大きかった。

「それっていつものやつと違いますよね?」

「そうね。こっちのほうが安かったし、大きいほうが良いに決まってるから」

「少しだけカットしたほうが良くないですか?そっちのほうが食べやすいですし」

博美の提案に愛子は信じられないと首を横に振る。

「何でそんなことをするのさ。あのね、お餅が丸いのは縁起物だからなんだよ。1年の始まりに食べるものなんだから、そういうのを大事にしないとダメじゃない」

「いやでも……」

博美が言い返そうとすると、愛子は鋭い視線を向けてくる。

「都会育ちのあなたには分からないかもしれないけどね、私たちはこういう風習を大事にして生きてんのよ」

そういうと愛子が餅をレンジで温め始めてしまったので、それ以上博美は言い返せず、うなずくしかなかった。