契約書に印鑑を押しておけば安心――多くの人がそう信じているかもしれない。​しかし、その印鑑が「認印」であった場合、思わぬトラブルに発展することがある。​今回は20万円の契約が認印の押印によって有耶無耶とされ、泣き寝入りを余儀なくされた事例を通じて、契約書における印鑑の重要性を考察する。

専業主婦を襲ったまさかの金銭トラブル

事の始まりは某感染症が猛威を振っていたころまでさかのぼる。当時、東京都内で専業主婦をしていた新井さんは近所のママ友である浅岡さんから相談を受けた。

その相談とは「下の子の進学費用がどうしても捻出できない……。お金を貸してほしい」というものだった。

世間は感染症の影響で前代未聞の出来事の連続。一部の日用品や食料品がお店から消えたり、仕事を失ったり、大幅に収入が減ってしまう人も出てきていた。

育児の負担やこの将来を憂う気持ちはママ友として理解できる。そう考え、新井さんは夫に内緒で浅岡さんへ20万円を貸す契約を結んだ。契約書は新井さんが作成し、新井さん浅岡さんともに市販の認印を押印。若かりし頃は某法律番組にかじりついていた新井さん。認印でも押印は有効だと知っており、この当時は何の憂いもなく、20万円のお金が必ず返ってくると信じていた。