<前編のあらすじ>

真美(31歳)は数合わせで誘われた合コンに参加していた。自己紹介をしていると、どうやら男性側にお店を任せておいたようで、大きな鍋が卓に運ばれてくる。

合コンで鍋って……と、女性一同はセンスを疑いながらも、料理を楽しむ。

しかし、じか箸で鍋のなかをかき回す男、食べながら話す、いわゆる“クチャラー”の男と、女性たちのテンションは下がるばかり。

その時、男性が1人遅れてやってきた。イケメンで、スーツを上品に着こなす男性に、女性一同のテンションは一気に盛り上がった。

●前編:「じか箸にクチャラー」忘年会シーズンに30代OLたちを震え上がらせた「あり得ない鍋合コン」の実体

手のひらを返す女性陣

檜山一喜は、都内の投資銀行で働いている同い年の32歳だった。仕事は忙しく、今日は割と早く上がれたほうだと言っていたから、きっと忙しさのあまり女性に縁がないままこの年齢を迎えたのだろう。葛西と遠藤とは社会人サッカーサークルの仲間で、ふたりに誘われて合コンに参加したのだという。

「おなかぺこぺこですよ。もう皆さんだいぶ出来上がってると思うんで、頑張って追いつきます」

檜山は鍋に追加した野菜や肉を入れながら、かなりのペースでお酒を飲んでいる。正面に座る智子に取り分けてもらった唐揚げやサラダの小皿を受け取り、上品さで具材を口のなかへと運ぶ。

「お仕事大変そうですね」

「まあそうですね。日頃数字ばっかり追っかけてるのもあって、休みの日なんかはキャンプ行ったり、自然に囲まれてリフレッシュして、なんとかバランスとってやってる感じですね」

「キャンプとか行かれるんですか!」

「こいつの作るカレーめっちゃうまいだよ。みんなにも食べてほしいよな」

「遠藤ってば褒めすぎだろ。別に普通のカレーだよ。今度皆さんも一緒にどうです?」

「気になる~」

イケメンに目がない智子は手のひらを返した積極さで合コンに参加している。テーブル下のグループチャットも静かになっている。いい男が1人いるだけで、こうもテーブルの雰囲気とは変わるものかと、真美は感心していた。

檜山の語り口は、まったく気取ったところがなく、エリートの嫌みを1ミリも感じさせない。もちろん話も面白いおかげで場は盛り上がり、話題はいつの間にか旅行好きだという絵里奈の一言から、檜山が学生時代にしたバックパッカーの話になっていた。

「いろんなご経験されてるんですねぇ」

「いや、でも学生らしい、アホみたいな経験ばっかですよ。ベラルーシで野宿していたら、当地の警察に捕まりそうになったり」

「出た出た。檜山の鉄板ネタ」

「鉄板ネタ言うな」

ちゃかしてくる葛西の肩を檜山が軽く小突く。イケメンだったらなんでも許されると思っているようで認めたくないが、檜山が入るだけでさわやかな男子校での一幕のようにすら見えた。

「え、なんですかそれ」

「どうして野宿なんてしたんですか?」

「だって、外国で野宿とか面白そうじゃないですか」

檜山は笑いながらそう言うと、日本酒を飲む。

それにしても、なんという優良物件なのだろうか。ルックスが良く、有名企業に勤務しており、話も面白い檜山のような男がどうしてまだ独身なのか不思議でならない。

そんなことを考えながら、真美がぼんやりと鍋の中の野菜に箸を伸ばした瞬間のことだった。