<前編のあらすじ>
鈴木和明さん(仮名、以下同)、卓也さん、剛さんは3兄弟だ。特に仲が良くも悪くもない一般的な兄弟仲だったが、父親である幸次さんが亡くなり関係性が一変する。遺産分割を巡り、長男の和明さんと弟2人で意見が対立したのだ。
長男の和明さんは「お前たちは父の思いを理解していない!」と弟たちを非難する。現実主義寄りの卓也さんと剛さんもそれぞれの立場を譲らず、話し合いは平行線をたどった。
そうした中、父親の書斎の掃除をしていた剛さんが本棚の横の引き出しから「遺言書」を発見した。
●前編:【遺産分割で争う3兄弟にまさかの転機…偶然見つかった遺言書で発覚した「父の最期の願い」】
遺言の真実性への疑問
「それは本当に親父の遺言なのか? 仮にそうだとして有効なのか?」
和明さんがイライラを隠せない様子で指摘する。その考えはごもっともだ。しかし、今回見つかった遺言はいわゆる自筆証書遺言と言い、全文が本人の手書きで書かれている。かつ本人の署名と押印があるものだ。それゆえ相当に真実性が高いものといえる。
とはいえ、偽造や変造が絶対ないかといえばそうとも言い切れない。もちろんそんなこと基本的にはあり得ないのだが、脅されていたりだまされて遺言書を書かされている可能性もあり得なくはないし、巧妙に本人の文字を真似て書くということも不可能ではない。
加えて、このIT全盛の時代に手書きだ。おまけに保管場所は自宅の書斎。IT業界に身を置く和明さんの疑問はもっともだ。
とはいえ、弟たちは父親の書斎で見つかったことや、遺言書に記載されていた字が父親本人の字で間違いないと感じたことから、その遺言書が本物だと考えていた。当然、遺言書にある父親の意思を尊重すべきと考えていたのだ。
しかし、「俺は納得いかない」と遺言書に懐疑的な和明さんが譲らない。
それに対して「これは親父の字だろう」と遺言書の存在に肯定的な卓也さんと剛さん。
3人とも意見が一致せず途方に暮れていたようで、私に連絡があったのはちょうどそのころだ。代表して和明さんから私に連絡があった。「遺言書の背景をお聞かせ願いたい」と電話で直接お話をいただいた。
何を隠そう、私は彼らの父親の幸次さんの遺言書の作成に行政書士として携わり、全面協力している。遺言書の中にも「兄弟で話し合いができなければここに相談するように」と私の名前の記載がある。そうして3兄弟と私たちの初対面が決まった。