3兄弟との会合

3兄弟と私はとある月の金曜日の夕方に初会合した。

「遺言書についてお聞かせいただきたい」

重苦しい空気の中、私にコンタクトを取った和明さんが口を開く。

それに対し、私は3兄弟の父である幸次さんが長年勤めていた会社の顧問をしていたこと、その縁で相続について相談を受けるようになったことなど、今回の背景から話を進め、遺言書の有効性について言及した。

「裁判官でない私が直接確定した事項を述べることはできませんが、一般的な話で言えば、おそらく今回の遺言書は有効である可能性が高いでしょう」

そう言い終わると同時に3兄弟はどこか一様に安堵(あんど)したような表情となり、場の空気が一変した。おそらく、一人懐疑的だった和明さんも、心のどこかで遺言書は有効で、そのとおりに進めるべきだと考えていたのだろう。場の空気が一つにまとまった気がした。

「手書きで書かれた遺言書の有効無効において保管方法・場所は関係ありません」

私は兄弟たちの疑問を解消していく。仮に見つかったのが書斎だろうが、金庫だろうが、どこで保管されていたかに関係なく有効なものだ。無効な場合があるとすれば、自筆で書かれていない箇所があるなど、形式的な要件を欠くなど例外的な場合だ。

私はさらに続ける。「記載内容や方法も基本的には自由です。今回のように便せんで書かれたものも有効になります」。

なお、自筆証書遺言は一度家庭裁判所に提出し検認という手続きを経る必要があるのだが、これは遺言書の有効性や無効であるかなどを判断する手続きではないことも補足する。

こうして私が一般的な遺言に対する見解を一通り述べたところで一番遺言書について懐疑的だった和明さんが「専門家の先生がおっしゃるなら……」と納得した。