<前編のあらすじ>

小学校の教師をしている明日香(24歳)は、自分の受け持つクラスでハロウィーンパーティーを企画した。

当日、仮装の衣装とお菓子を持ち寄るはずだったが、クラスの児童の1人、悠里は衣装もお菓子も忘れたと言い張った。普段は忘れ物をしない悠里を心配した明日香は、児童の家庭への連絡帳に、ハロウィーンパーティーのことを書き記した。

翌日、教頭に呼び出された明日香の目の前に、明らかに怒っている悠里の母親・麻央(38歳)が待っていた。

●前編:仮装パーティーで見えた“家庭格差”…モンスター母が「ハロウィーンに学校に怒鳴り込んだ理由」

学校からの連絡帳

仕事から帰った麻央は夕飯の片付けを終えた後、夜勤の清掃のパートに出るまでのあいだに、娘・悠里の連絡帳に目を通していた。いつものように、担任からの当たり障りのないコメントが書かれているだろうと思っていたが、見慣れない単語が飛び込んできた瞬間、思わず息をのんでいた。

「ハロウィーンパーティー? 仮装とお菓子?」

麻央は驚きのあまり、何度もコメントを目でなぞった。そんなイベントが学校で行われていたことを、母親の麻央は何も知らなかった。

「悠里、ちょっと来て」

麻央はキッチンのテーブルで宿題をしていた悠里を呼んだ。悠里は、麻央の表情から何かを察したのか、少し怯えたように顔をあげた。

「今日、学校でハロウィーンパーティーがあったんだって? どうして何も言わなかったの? 仮装の衣装とお菓子を忘れたって連絡帳に書いてあったんだけど」

悠里はハッとしたように見開いた目でしばらく麻央を見つめてから、逃げ場を探すよう視線をそらした。

「……ごめんなさい。言うの、忘れてた」

だが麻央にはそれがうそだとすぐに分かった。

言い忘れたのではなく、言い出せなかったのだ。

母子家庭である麻央たちの経済状況は厳しい。普段からお菓子なんてほとんど食べる余裕がないのだから、ハロウィーンの衣装を用意したり、友達に配るお菓子を用意したりするのは、麻央たちにとって簡単なことではない。

もちろん、悠里だってクラスメートと同じようにハロウィーンを楽しみたかっただろう。だが、そんな家庭事情に気を使った悠里は、最後まで麻央には何も言わなかった。

そのことに思い至った瞬間、麻央は申し訳ない気持ちと同時に、学校に対する怒りが湧き起こった。

どうして学校は、こんな行事を当たり前のように開催したのだろうか。家庭の事情も理解せず、衣装やお菓子を「持ってきて当然」とするのは無神経だ。子供たちの経済状況は1人ひとり異なるのに、なぜそれを無視して一律のイベントを押し付けるのか。

そもそも怪しいと思っていた。悠里のクラスの担任は去年大学を卒業したばかりの新人で、何の苦労もせずに育ってきたような穏やかでふわっとした女だった。だからこういう無神経なことができるのだろう。そうに違いないと麻央は思った。

「分かった。今度からちゃんとママに教えてね」

「ごめんなさい」

麻央は悠里の頭をなでる。母としてやるべきことは1つだった。