<前編のあらすじ>

沙織(42歳)は、スーパーマーケットでパートで働きながら、実母・達子(70歳)の介護のため、実家まで通っている。

達子は腎臓の病気で人工透析の費用もかかる上、週に数回の実家までの往復は、沙織の体力も経済的にも決して軽くない負担になっていた。

沙織は実家を売って一緒に住むことを提案するが、「無理して来なきゃいい。誰もあんたに面倒見てくれなんて頼んでないんだから」と、かたくなに同居を拒まれてしまい、大げんかに発展する。

●前編:「何を言われてもこの家から出る気はない」実母に同居を拒まれ…40代娘が「通い介護を苦行」に思うワケ

悠長な気持ちではいられない

「おばあちゃんも素直じゃないよね」

沙織が柿を盛りつけた皿を出すや、待ってましたと言わんばかりに娘の絵里はフォークを刺して頰張った。春から中学に上がった娘は、夕飯のカレーを三杯も食べていたはずなのに、柿を次から次へと口のなかへ運んでいく。いくら好物だからと言っても、育ち盛りの胃袋の無尽蔵さに驚かずにはいられない。

「お義母(かあ)さんも、きっと沙織の負担のことを申し訳なく思ってたんだよ」

夫の茂もテレビから視線を外して沙織に言葉をかけてくれる。2人とものんきなものだ。だが、そののんきさがいら立つ沙織の心をなだめてもくれた。

「そうかもしれないけど、言い方ってもんがあるでしょ。こっちだって別に遊びに行ってるわけじゃないのにさ」

沙織もダイニングチェアに座り、柿を頰張る。まだ少し時期が早いのか、柿は少し渋かった。

「ずっと住んできた家なんだろう? きっとお義母(かあ)さんにも思い出があって、離れるに離れられない気持ちがあるんだよ。だからもう、ゆっくり相談していけばいいよ」

茂の言うことがもっともだとは思う。しかし茂が介護を手伝えるのは仕事がない週末だけで、平日の世話はパートの融通が利きやすい沙織の役目だ。ゆっくりやっていては、沙織の体力のほうが先に限界を迎えてしまう。だから悠長な気持ちではいられなかった。