高齢者雇用「非正規ほとんど」 家計にゆとりなしで資産形成の需要増
就業意欲が高いものの、安定した雇用についているとは限らない。
同白書では、非正規の職員・従業員(役員を除く)比率は、男性の場合、55~59歳(11.2%)であるが、60~64歳(44.4%)、65~69歳(67.6%)と、60歳を境に増加傾向にある。
女性は男性より、非正規の割合が高い。55〜59歳(58.5%)だったものの、60〜64歳(73.3%)、65〜69歳(84.8%)と続いた。
非正規の割合が高いにもかかわらず、彼らはなぜ働くのだろうか。
同白書では、内閣府の「高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査(2021年度)」の調査結果が紹介されている。
内閣府の調査によれば、経済的な暮らし向きについて「心配がない」と感じている65歳以上の人の割合は全体で68.5%だった。
ただ、心配はないが家計にゆとりがあると言い切らなかった人たちは多くいる。
同じ質問に対して、「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」(56.5%)がもっとも多く、「家計にゆとりがなく、多少心配である」(23.7%)、「家計が苦しく、非常に心配である」(7.5%)と続いた。
そのため、高齢者のなかでも資産形成のニーズが高まっているという。
厚生労働省のある関係者は「これまでは若いうちに投資をし、高齢になるにつれて投資を控えることがセオリーだった。ところが、年々高まる高齢化率、平均寿命、そして年金受給額の減額など、お金の心配から高齢者は抜け出せなくなっている」と語る。
日本の高齢化率は、世界で二番目に高い。「人生100年時代」は目の前だ。
世界銀行の最新の調査によれば、世界200カ国(地域を含む。また人口10万人以上)のうち、1位はモナコ(35.79%)で、2位が日本(30.7%)だった。3位イタリア(24.46%)、4位フィンランド(23.62%)と続いている。
政府は前々から「生涯現役社会を創る必要がある」としている。21年に改正された高年齢者雇用安定法では、努力義務として企業に70歳までの就業確保を求めるなど、法改正にも取り組み、高齢者の就労を進めている。
だが前出の厚生労働省の関係者は「それだけでは十分に足りず、金融庁などを通して資産形成の必要性を呼びかけている。各証券会社にて、高齢者の口座開設数も増加しており、今後さらに需要が高まるのでは」と内情を述べた。
この関係者が言うように、資産分布も年代が高くなるにつれ、純貯蓄(貯蓄から負債を差し引いた額)が増加傾向にある。下図のように、60~69歳、70歳以上の世帯では、ほかの年齢世帯と比べて、純貯蓄の割合が多く占めている。
金融資産の分布状況はどうだろうか。世帯主の世代別では、年齢が60歳以上の世帯が1989年時点では31.9%だったものの、2004年には54.9%に増加。10年後の2014年には62.5%にまで増え、2019年時点では63.5%にまでのぼった。
金融資産の分布は高齢者に多数を占めているものの、前出の調査結果のように家計にゆとりがあると言い切る人が依然と多い。労働人口の高齢化も、危機感の表れだ。麻生太郎副総理兼金融担当相が2019年に発言した「夫婦の老後資産として、30年間で約2000万円が必要」のように、今回の白書は、前持った資産形成の準備が必要とみれる内容となった。